4月に80代前半の女性が大腿骨骨折で入院したときの話。

 

入院して2日後に牽引開始。おしっこの管も入れられた。

3日後の昼頃から困惑気味になり、夜間には場所がわからなくなり、そわそわと落ち着かなくなり、独語も始まり、そのうち「助けて〜」と叫び始めた。

主治医が処方していた不穏時リスペリドンOD(1mg)1Tを、看護師が2回飲ませたが、ほとんど効かなかった。

4日後の昼までそのまま不穏状態が続き、天井に男の人がいると言ったりして騒ぎ、体動が激しくて患肢の安静が保てず、牽引も緩くなってしまった。

11時頃、困った主治医から僕のPHSに連絡がきた。なるべく早く診て欲しいとのことだったので、午前の外来のあとすぐに病棟に往診した。

看護記録の家族の情報からは、もともと認知症はなさそうだった。バイタルサイン・採血データ・心電図・併用薬を確認して、とりあえず試しにバルプロ酸Naシロップ(50mg/mL)1mLを処方してすぐに飲ませて2時間後に見に行ったら、力つきて少しうとうとしていたけど過鎮静ではなさそうだった。

症状の激しさに何となく違和感があったのでその日の夕方に至急で頭部CTを撮ったが、とくに出血などはなかった。海馬は萎縮しているかしていないか微妙な感じだった。認知症はないかあっても軽度だろうと思った。

その日は、夕食後から、下記の処方を開始した(↓)。

 

リスペリドンOD(1mg)1T

デエビゴ(2.5mg)2T

夕食後

 

バルプロ酸Naシロップ(50mg/mL)3mL

朝昼夕食後(1-1-1)

 

不穏時(夜)

リスペリドンOD(0.5mg)1T

アタラックスP(25mg)1T

「夕食後〜午前3時までに1時間以上あけて3回まで」

 

リスペリドンOD(0.5mg)1T

不穏時(昼) 

「午前3時〜夕食後までに1時間以上あけて3回まで」

 

翌朝に往診したら、しっかり起きていて穏やかな表情だった。会話も成立。見当識も回復していた。(でも入院してからの日数はまちがっていた。もしかしたらせん妄症状が激しかったときの記憶がないのかもしれない。)

看護記録を見ると夜20時から朝までしっかり寝たようだった。

その日は、翌日の手術後の不穏に備えて、不穏時(内服できないとき) セレネース+アタラックスP+生理食塩水 を準備しておいた。

 

翌日は、手術直後の14時から落ち着かなくなった。しかし夕食後薬を服用して深夜には入眠した。

 

その後はずっとせん妄はなかった。

術後10日たった頃、痛みによるせん妄リスクも減ったからリハビリのためにもADLを上げようと思って、バルプロ酸Naシロップを漸減中止した。その後リスペリドンを半分に減らしたけど問題なく経過しているのでリスペリドンも中止する予定。

 

ところで認知症のBPSDの興奮にバルプロ酸がいいという根拠はまだ不十分らしい。だからいまいちバルプロ酸は流行っていないようだ。

しかし個人的にはとても使いやすくていい薬だと思っている。眠くなりにくくて興奮だけをうまくとってくれるから。(あくまで個人の感想です。)

 

1回量は1mL(50mg)。それを1日1回〜4回ぐらい使う。

不穏になるのが夕食前後だけだったら15〜16時頃に飲んでもらうといい。(「夕暮れ症候群」って言うんだったな。久しぶりに思い出した。)

夕方から夜まで不穏になるんだったら、昼食後と夕食後に処方したりする。そうやって落ち着かなくなる時間にあわせて飲む時間を決めるといい。

 

処方に「JCSⅡ桁のときは服用中止」とコメントを書いておくと看護師さんが調節してくれるから、傾眠の危険も減らせて便利なのでよくそうしている。

 

上限は300mg/日までにしている。それで効かなければそれ以上増やしても効かない。

 

夜間せん妄があるときは、バルプロ酸だけでは効かない印象がある。そういうときは抗精神病薬と新規睡眠薬を併用することにしている。

 

バルプロ酸Naシロップとリスペリドン水液は同時に服用すると配合変化するかもしれない。リスパダール内用液の添付文書に、混ぜると配合変化するって書いてあったから。

 

あと、デパケンシロップ(先発品)は甘くておいしいらしい。患者さんがそう言っていた。拒薬も少ないかもな。

もともとシロップは小児のてんかんに使うから、後発品も甘くて飲みやすいはず。