宿といっても、先ほどお世話になった、貿易会社の取引先の会社
の2階らしい。
場所は、南京西路と陝西南路に挟まれたブロックにあったように思う。
小さな会社と聞いていたので、3、4階建ての雑居ビルを想像したが
たどり着いたのは、2階建ての木造住宅だった。あたりで行水している
老人がいたり、子供が走り回ったりしていた。
出迎えてくれたのは初老の痩せた男性で、陳さんといった。
お互い言葉がわからなかったが、筆談と何とも中途半端なジェスチャー
で会話が成立した。漢字おそるべし。
1階は陳さんの事務所兼住宅、2階は倉庫と小さな部屋が2つあったと思う。
案内された2階の部屋は、簡易ベッドが2つあるだけの質素な部屋であった
が、私たちには十分すぎる立派なものであった。
陳さんには、泊まらせていただいた上に、夕飯までご馳走になった。
1階の事務所に備えられた小さなテーブルには、家庭的中華料理が
並んでいた。
空心菜の炒め物と冷えた青島ビールの味は今でも鮮明に憶えている。
テレビでは、経済ニュースが流れていて、陳さんは会話もそこそこに
熱心に株価の推移をみていたのが印象的だった。
窓の外は、もう夕方なのに建設工事の音がけたたましい。
今から思うと、アジアの巨竜の胎動は市井レベルでも
すでに始まっていたのかもしれない。
(不定期に続きます)
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