最近ちょくちょく僕の部屋に出入りする人物がいる。
 といっても色っぽい話では全くなく、就活中の息子が上京のたびに宿代わりにしているというだけだが。いまは僕たちの時代ほど地方で企業説明会などが開催されず、いきなり東京に来い、となるらしい。いまの大学生はたいへんだ。


 彼は日中リクルートスーツで都内へ向かい、僕もなんやかやと仕事があるので、お互い夜に戻ってきても時間を合わせて一緒に食事、というのがなかなか難しい。どうしても、近所のスーパーかコンビニでそれぞれ自分が食べるものを買って帰る、ということになる。たまに時間が合えば、料理自慢の息子が腕をふるってくれたりするのだが。
 そんな状態ではあるが、相手のことを全く感知しないというのも味気ないので、多少は僕が二人で一緒に飲み食いできるものも買い置きすることになる。たいていは焼酎とつまみになるのだけれども。
 前置きが長くなった。今日はこのおつまみの話である。


 いい歳をした父子が深夜に黙々とつまむのは、たいてい枝豆である。調理しなくていい、厳密に二分割しなくていい、不足しがちなビタミンが摂れると、いいことづくめだ。ちなみに我が家ではビールよりも焼酎のアテとなる。飲むのは九州の米か麦で、球磨焼酎が多い。この「飲む熊本支援」については、また日を改めて書くことにしよう。どうも、延々と語ってしまいそうだから。


 さて、枝豆。
 恥ずかしながら、つい最近まで枝豆が大豆であることを知らなかった。正しくは、成長途中の大豆を収穫したものが枝豆らしい。
 ということは……。
 あればいくらでも食べてしまう枝豆一家の長である僕は、ふと妙案を思いついた。


「自宅で大豆を育てたら、最強じゃないか?」


 生育途中で枝豆として収穫する以外に、完全な育てきった後でも、利用価値はいくらでもあるではないか。
 おそらく納豆が作れる。もしかしたら味噌も作れる。あろうことか豆腐まで作れる。頑張れば醤油まで作れてしまうかもしれない。これほど万能な食物があ
るだろうか。
 だが、そこまで甘くはなかった。詳しい人に訊くと、「大豆は虫さんによく食べられるよ」だそうだ。
 あああ、そういう問題があったか。恒久的な食料確保のためには、害虫との果てしない闘いと覚悟せねばならないのか。そこまでの根性がはたしていまの自分にあるだろうか。いやない。


 イソフラボンと植物性タンパク質に不自由しない楽園は、遥か遠いようである。取り敢えず市販の大豆を植えるところから始めてみるか。いつか、自家製の枝豆が収穫できる日を夢見て。