つぼ Ⅰ

 つぼを みていると
 しらぬまに
 つぼの ぶんまで
 いきを している


  つぼ Ⅱ

 つぼは
 ひじょうに しずかに
 たっているので
 すわっているように
 見える
こんなしらじら明けが
いつかもきたとき

わたしには父があった
わたしには母があった
小さなわたしは ふたりの間を
あるいていた

眠っている街のまんなかを
アスファルトに 高くひびいた
父の 登山用の ステッキの音

小さなわたしは
小さなリュックサックをしょって

そうして こんなしらじら明けの
今日
眠っている街のまんなかで
見えないリュックサックをしょって

わたしには 父もない 母もない
小さなおまえ
おまえにも 父もない 母もない


吉原 幸子の詩。


雄々しくネコは生きるのだ
尾をふるのはもうやめたのだ
失敗おそれてならぬのだ
尻尾を振ってはならぬのだ
女々しくあってはならぬのだ
お目目を高く上げるのだ
凛とネコは暮らすのだ
リンと鳴る鈴は外すのだ
獅子を手本に進むのだ
シッシと追われちゃならぬのだ
お恵みなんぞは受けぬのだ
腕組みをしてそっぽ向くのだ
サンマのひらきがなんなのだ
サンマばかりがマンマじゃないのだ
のだのだのだともそうなのだ

雄々しくネコは生きるのだ
ひとりでネコは生きるのだ
激しくネコは生きるのだ
堂々ネコは生きるのだ
きりりとネコは生きるのだ
なんとかかんとか生きるのだ
どうやらこうやら生きるのだ
しょうこりもなく生きるのだ
出たとこ勝負でいきるのだ
ちゃっかりぬけぬけ生きるのだ
破れかぶれで生きるのだ
いけしゃあしゃあと生きるのだ
めったやたらに生きるのだ
決して死んではならぬのだ
のだのだのだともそうなのだ
それは断然そうなのだ

井上ひさしの詩より