ぞうきん  まど・みちお

雨の日に帰ってくると
玄関でぞうきんが待っていてくれる
ぞうきんでございます
というしたしげな顔で
自分でなりたくてなったのでもないのに

ついこの間までは
シャツでございますという顔で
私に着られていた
まるで私の
ひふであるかのようにやさしく
自分でそうなりたかったのでもないのに

たぶんもともとは
アメリカかどこかで
風と太陽にほほえんでいたワタのh花が
そのうちに
灰でございますという顔で灰になり
無いのでございますという顔で
無くなっているのかしら
私たちとのこんな思い出もいっしょに
自分ではなんにも知らないでいるうちに

ぞうきんよ!