密売屋に行った翌日から、マーメイモン達は交代で商船の航路を見張り始めた。
海底に座り、固いワカメをちまちまとかじりながら、船着き場を見つめる。
五日目に、見張っていたオクタモンから連絡が入った。
東の船着き場に小さな隊商が着いて、荷物を運び込んでいると。
バシャについている隊章は、密売屋が渡してくれたリストに載っているものだ。
つまり、目当ての十字路のバザールの割符を持っている隊商ということだ。
マーメイモン達は素早く身支度を整えて、予定している襲撃地点に向かった。
場所は、西の船着き場の沖合。東から来ると、陸が見え始める辺りで、船上のデジモンの気が緩みやすい。
そして、水が濁っているために、船上から海中のデジモンを見つけづらい。
マーメイモン達は、よどんだ海水の臭いに顔をしかめながら、所定の位置についた。
数十分後、水面が小さく揺れ始めた。
マーメイモンは緊張した面持ちで錨の柄を握り直す。
やがて、波の向こうから一艘の船底が現れた。
同時に、イッカクモンとオクタモンが勢いよく水面に飛び出した。
「《ハープーンバルカン》!」
「《海鳴墨銃》!」
牽制射撃と、視界を奪う墨。船が大きく速度を落とす。
その隙にマーメイモンは尾びれを大きく振って、甲板に飛び込んだ。
「動くんじゃないよ!」
屈強な何体かが近づこうとしてきたが、マーメイモンが錨を振って蹴散らす。
「この隊商のボスはどいつだ?」
ガワッパモンの言葉に、船室から一体のデジモンが姿を見せた。
地上のデジモンは良く分からないが、茶色で丸々した、二足歩行のビーストデジモンだ。
「目当ては食料か?」
「違うね」
ビーストデジモンの言葉に、マーメイモンは短く返す。
「あんたらが持ってる十字路のバザールの割符を渡してもらおうか」
その言葉に、ビーストデジモンは、ほう、とわずかに目を見開いた。
「割符を海賊が手に入れても、大した役には立たないと思うが……食料ではダメか?」
「割符を出しな」
マーメイモンの取り付く島もない言葉に、ビーストデジモンは溜息をついた。
「分かった。取ってくる」
ビーストデジモンが船室に入り、じきに一片の木切れを持って戻ってきた。
マーメイモン達に数歩近寄り、木切れを床に置いて下がる。
マーメイモンの手振りで、ガワッパモンが木切れを拾った。それをマーメイモンに手渡す。
マーメイモンは木切れをつぶさに見た。木切れの端に、何か文字が書きつけてある。密売屋が言っていた特徴と一致する。
だが、マーメイモンはそれを床に放り投げた。
「偽物であたしを誤魔化そうったってムダだよ」
そう言ってビーストデジモンを正面から睨む。
割符の真偽は分からない。だが、割符は隊商にとって大事なものだと聞いている。
その割に、このビーストデジモンは大して渋らなかった。それに、表情や仕草を見て直感的に嘘をついていると感じた。
あたし達は、地上のデジモンのずるい手には騙されない。
マーメイモンは錨の先を甲板に打ち下ろした。鈍い音がして、甲板にひびが入る。
「さあ、本物の割符を出しな。こっちは船を沈めて、お前らが溺れた後で割符を探したっていいんだ」
マーメイモンの言葉に、ビーストデジモンが顔をしかめた。ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「私達にとっても、割符は商売に必要なものだ。どうしてもと言うのなら……」
マーメイモンの視界の端に、動くものが映った。
ピンク色の、小柄なデジモンだ。船尾から飛び立ったのか、小さな翼で懸命に飛んでいる。
その足には、木切れが結び付けられている。
「何!?」
マーメイモンが目を見開くと同時に、ビーストデジモンが片手を挙げた。
「総員反撃!」
その声に、隊商のデジモン達が一斉に襲い掛かってきた。
マーメイモンは錨を振り回し、敵の爪や火炎弾を弾き返す。
こっそり逃げるデジモンと、急に反撃してきた隊商。
つまり、あの小さいデジモンが、本物の割符を持って逃げようとしている。
「ピンクのちっこいのを捕まえな!」
マーメイモンの大声に、オクタモンとイッカクモンが動いた。
必死に陸へと飛ぶピンクの鳥を追い、ミサイルと墨汁弾を浴びせる。
ピンクの鳥は幾発かを避けたが、墨汁にまみれ、羽毛が飛び散った。
まっすぐ飛ぶ力を失い、よろめきながら陸の一角へと落ちていく。
「あたしらも退くよ!」
マーメイモンは敵を蹴散らし、ガワッパモンと共に海へ飛び込む。
一気に敵の攻撃の届かない深部へ潜る。
そして、ピンクの鳥が落ちた方へと急いだ。
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約10か月ぶりの小説更新……!
大変お待たせいたしました!
仕事の疲労が溜まりがちで執筆が遅々としていますが、書きたい気持ちは少しも衰えていません。(早く闇の闘士を出したい←)
自分の元気具合を見ながらになりますが、今後も執筆は続けていきますので、見守っていただければ幸いです。