水の章〔1〕極貧の海賊マーメイモン | 星流の二番目のたな

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 水の闘士の育った時代は、マリンデジモンにとって先の見えない苦難の時代だった。

 地上で長年繰り広げられたヒューマンデジモンとビーストデジモンの争いにより、川には汚泥や溶岩、毒液等のデータが流れ込み、水質の悪化を引き起こした。
 それはやがて海へと流れ着き、沈殿し、慢性的に生態系を蝕んでいく。
 マリンデジモンの主食である魚や海藻は育たず、デジモン達は食い詰めていく。
 結果、食料や金品を求めて海上の船を襲う者が続出した。
 将来水の闘士となるマーメイモンも、そのひとりだった。
 
 一そうの船が帆を広げ、海上を進んでいる。軽く二十体は乗れそうな帆船だ。
 重い荷物を運んでいるのか、喫水線は甲板の近くまで上がっている。
 船上の中央部では一体のデジモンが舵輪を握っている。甲板には、他に数体の船員と護衛らしきデジモンが二体。
 緊張した面持ちで、甲板を歩き、水面を見つめている。
 突如、船首の方で水柱が上がった。甲板のデジモン達がどよめき、視線が一斉に船首に向く。
 水柱の中から現れたのは、イッカクモンだった。両腕を上げてうなり、額の角を船に向ける。
 イッカクモンの角に突かれたら、船を破壊される。
「取り舵!」
 船長の大声で、舵輪が勢いよく回された。船が大きく揺らぎながら左へと動き出す。
 だが、直後に舵輪一帯に、墨がぶちまけられた。舵輪を握っていたデジモンが全身に墨を被り、悲鳴が上がる。
「うわああ! 見えねえ!」
 間髪入れず、海から更に二体のデジモンが飛び出し、船首に着地した。
 現れたのは、マーメイモンとガワッパモン。マーメイモンが黄金の錨を甲板に突き刺した。
「動くんじゃないよ!」
 その一声に、船上のデジモン達の動きが止まる。
 マーメイモンが船上を厳しい目で見回す。
「最近この辺りを縄張りにしてるマーメイ海賊団と言えば、当然聞き覚えがあるだろ。痛い目みる前に、食料と金目の積荷を海に投げな」
 その言葉に、船上がどよめく。そのこわばった表情に、マーメイモンは意地の悪い満足感を覚えた。
 船長が仕方なさそうに身振りをして、船員に指示を出す。
 船員達が船倉から積荷を運び出し、海へと投げる。
「っ! 《DJシューター》!」
 突如、ガワッパモンがディスクを投げた。
 ディスクは木箱を粉砕し、その裏にいた護衛に突き刺さった。護衛はうめき、その場に倒れる。
 ガワッパモンがにんまりと笑う。
「へっ、裏をかこうったってお見通しだぜ!」
「くそっ!」
 反対側の樽の裏から、もう一体の護衛が飛び出してきた。狙いはマーメイモン。
 マーメイモンが突き刺していた錨に手をかけるが、構える暇はない。
「もらった!」
 護衛が武器を振り下ろした。
 
 が、マーメイモンは涼しい顔をしてその場に立っていた。
 マーメイモンは、片手で錨を持っているだけ。だが、護衛の武器はその錨に軽々と受け止められていた。
 愕然とする護衛に、マーメイモンはふふんと笑ってみせた。
「それくらい、あたしには効かないね」
 マーメイモンが手元で錨を回し、先を護衛の腹に向けた。
「《チャームプランダー》!」
 錨の一撃で、護衛の体が吹き飛んだ。
 護衛はマストに叩きつけられ、めりこんだ。
 マストが嫌な音を立ててきしみ、曲がり始める。
「やべ」
 マーメイモンが小さく舌を出した。
 マストが折れ始め、船上は大混乱に陥った。
 ガワッパモンが海へと飛び込み、叫ぶ。
「手に入った荷物だけでいい! いただいてずらかるぞ!」
 マーメイモンも続いて海に飛び込む。
 マストが倒れた頃には、海賊達の姿は消えていた。
 
「かしら、その馬鹿力もうちょっとどうにかならねえかね」
 ねぐらに帰る途中、ガワッパモンがマーメイモンに文句を言った。
 マーメイモンは唇を尖らせる。
「仕方ないだろ。まだ進化したばっかだし、うまく抑えられないんだから」
「おれまでマストに潰されるところだったぜ」
 まだ文句を言うガワッパモンを、他の仲間がとりなしにかかる。
「まあまあ、かしらが進化したおかげで、こうやって稼ぎが良くなったんだし」
 イッカクモンの言葉に、オクタモンが何度も頷く。
 ガワッパモンも渋々、「それはそうだが」と答えた。
 
 ねぐらに着くと、小さなデジモン達が駆け寄ってきた。
「かしらー、おかえりー! ごほっ」
 咳きこむプカモンの背を、マーメイモンが優しくさする。
「お前はおとなしくしてろって、言ってるだろ」
「うん、でも、かしらのかお、早く見たいから」
 屈託なく笑うプカモンに、マーメイモンは苦笑する。
「今日稼いだ積荷が売れたら、お前の薬を買ってやるからな」
「ありがと、かしらー」
 プカモンは嬉しそうに笑った。
 その後ろでは、ガニモンがカゴを背中に乗せて歩いている。
 カゴの中には、ワカメがほんの一握り。ガニモンが一日歩き回っても、あの程度しか見つけられない。あれでは、生まれたばかりのデジモンですら満腹にできない。
(悪いのは、マリンデジモンをここまで追いつめている地上のデジモン達だ。あたし達は、奪われた分を取り返しているだけだ)
 マーメイモンは、心の中でつぶやいた。
 
 
 
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だいぶ更新間隔が開いてしまいましたが水の章開幕です!
戦乱の時代を書くのなら、こういう立場のデジモンもいるよね……という章です。