ジオグレイモンは半ば引きずられるようにして、町から連れ出された。
イリス隊商のキャンプに戻ってきたところで、ようやくツチダルモンが手を離した。
ジオグレイモンは荒い鼻息のまま、その場に勢いよく腰を下ろした。
そのただならぬ様子に、グリズモンが怪訝そうに近寄ってきた。ジオグレイモンを胡散臭そうに見てから、ツチダルモンに視線を移す。
「ツチダルモン隊長、何かあったんですか」
ツチダルモンは軽く頭を掻いた。
「まあ、ちょっとな。私が対処するから、グリズモンは配達に行ってくれ」
「はあ」
グリズモンは納得できないような顔をしつつも、仕事に戻っていった。
ピヨモンがジオグレイモンの顔をのぞきこんだ。
「さてと。少しは反省した?」
「何で俺が反省しなきゃいけないんだ」
ジオグレイモンがうなりながら顔を上げる。黄色の目には、強い怒りがうごめいている。
「あのお触れは嘘っぱちだ。万が一、町長とグレイドモンが少年王の暗殺を謀ったのが事実だとしても、街中での戦闘なんてなかった。俺達は『虐殺』されたんだ」
ツチダルモンがため息をつく。
「その言い分は分からないでもない。私だってあの時、町外れにいたんだ。あれは戦闘と呼べるようなものではなかった」
「だったら、何でさっき、広場で俺を止めたんだ!」
ジオグレイモンの鼻から白い煙が噴き出る。
一方のツチダルモンは、冷静にジオグレイモンの目を見つめた。
「王のお触れと、流れ者の言葉、信用されるのは前者だからだ」
「っ!」
反論しようとするジオグレイモンを、ピヨモンが押し留める。
「つまり、あの広場ではお触れが真実だったってこと?」
「ピヨモンの言う通りだ。反論するための証拠が残っていない以上、ジオグレイモンの主張はまず通らない」
「……くそっ」
ジオグレイモンがこぶしを握り、地面を力なく叩いた。
「草原の町は、とてもいい町だったんだ。警備隊員の俺の仕事なんてほとんどないくらい、平和な町だった。なのに、滅ぼされて、悪者扱いされるなんて、あんまりじゃないか」
ジオグレイモンの頬を、涙が一筋流れた。
ピヨモンは気まずい思いがして、涙からそっと視線を外した。
広場で騒いだ時は呆れてしまったが、やっと、ジオグレイモンの町を思う気持ちが分かった気がした。
放浪の民である自分達には分かりづらい気持ちだが、大切な場所だったことくらいは理解できる。
だから、こんな一言が出てしまったのかもしれない。
「隊長、ジオグレイモンの言葉を信じてもらう方法はないのかな?」
ピヨモンの言葉に、ツチダルモンが、ふむ、と考え込む。
「自分の意見を広めるには、まず広める手段が必要だ。それから、少年王と張り合えるだけの権力も。今のジオグレイモンにはどちらもない。反論したら最後、捕まって揉み消されるのがオチだ」
「広める手段と、権力」
ジオグレイモンが記憶に留めるために復唱する。
ピヨモンが片手を上げた。
「それって、どうやったら手に入るの?」
「自分と同じ目的を持つ者を集めることだ。隊商を組むのと同じだな。同士が増えれば、広報力と権力は自然と身についてくるだろう」
ツチダルモンは「だが」と付け加えた。
「その前に、ジオグレイモン自身がもっと世間を知った方がいい。世の中を知り、相手に気を配れるようにならなければ、ジオグレイモンの元にデジモンは集まってこない」
ジオグレイモンが眉根を寄せた。
「つまり……?」
「隊商の護衛としてこれからも旅をして、色んな場所を見なさいってことだよ!」
ピヨモンが笑顔でジオグレイモンの肩を叩いた。
ツチダルモンも、その通り、と頷く。
「世間を知るには、旅はうってつけだ。これからもイリス隊商の一員として各地を見回るといい」
「なる、ほど」
ジオグレイモンは今一つ理解できてない顔のまま頷いた。上手く丸め込まれたことに、気づいているのかいないのか。
ピヨモンもツチダルモンも、決してジオグレイモンを気遣っていないわけではない。
ただ、ジオグレイモンは仲間を集める前に世間の厳しさを知り、諦めるだろうと思っていた。ジオグレイモンやイリス隊商にとっても、それが最善だと。
この時は、そう思っていた。
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2か月近く空いてしまいましたが、ようやく『古代十闘士記』を更新しました! 短めですが、キリが良いのでここまで。
ジオグレイモンの属するダイナソーデジモンは、素直で相手を疑うのが苦手なので、口の上手い相手には丸め込まれてしまいます(笑)
隊商なんて口の上手いデジモンの集まりですからね。
次の話は、引き続き風の章にするか、新章にするか考え中です。
さて、『古代十闘士記』を書くにあたり、ワールドマップを作成しました!
今更感ありますが(笑)
別記事で上げますので、本作を読む際のご参考にどうぞ。