光の章〔1〕気鋭の宮廷兵士ガルルモン | 星流の二番目のたな

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光の章
〔1〕 気鋭の宮廷兵士ガルルモン

 古代十闘士の中で、最も経歴を辿りやすいのが光の闘士である。
 彼が元・ルーチェモンの光の城の宮廷兵士であり、当時の経歴書が残っているためだ。
 それによれば、紀元前二十三年生まれ。プニモン、ツノモンと進化し、紀元前十七年にエレキモンになった。その年に光の城下町の元となったリテの町に移住。紀元前十三年に光の城が完成した際、宮廷兵士の募集に参加し、その素早さと正確な命中力を買われ、採用。その年にガルルモンに進化した。
 紀元前七年当時ガルルモンに与えられていた任務は、主に訓練生の育成と紛争の調停だった。
 が、本人に言わせれば、「本来の仕事よりも少年王のちょっかいの相手をする方が忙しかった」らしい。
 その日常がどのようであったのか、前章から少し時間をさかのぼり、大粛清の半月前から話を始めたい。
 
 
 
「こらぁ、殿下ーーーっ!」
 城内にガルルモンの大声が響き渡る。
 城のデジモン達は、やれまたかと苦笑しながら道を開ける。
 その中を、少年王と学友がケタケタ笑いながら駆け抜けていく。
 それを、ガルルモンが猛然と追いかける。その姿はさすが実力ある宮廷兵士。しかし、よく見れば体はナッツまみれで、走った後にとても香ばしい香りを振りまいていた。
 後ろを振り向いた学友が、慌てて少年王に言う。
「わわっ、追いつかれちゃうよ」
「大丈夫。僕につかまって!」
 小柄な学友を抱え、少年王が背中の羽で飛ぶ。
「やーい、ここまでおいで!」
 ガルルモンを眼下に見下ろし、二体は勝ち誇った顔で上空に浮かんでいる。こうして飛べないガルルモンから逃げ切るのが常套手段、だったのだが。
「はあっ!」
 ガルルモンの後ろ脚が地面を強く蹴った。その勢いで壁を駆け登り、二体の元まで登り詰める。
「えっ」
「嘘」
 唖然とする二体をひっつかみ、地上の小麦袋の山めがけて引きずり下ろす。
 小麦粉が盛大に舞い、周囲が白く染まった。
 白い霧が晴れると、落ちた三体が小麦粉まみれで真っ白になっていた。少年王と学友は粉にむせて咳きこんでいる。
 その中でガルルモンが胸を張り、二体を見据える。
「いつまでも俺に同じ手が通じるとお思いでしたら、大きな間違いですよ。ルーチェモン様、ララモン様」
 自慢げなガルルモンに対して、二体は観念したように肩を落とした。
 周囲のデジモン達から拍手が起こる。
 拍手に紛れて「ガルルモンはおふたりを捕まえるために、わざわざ壁を走る技術を身につけたのか?」と聞こえてきたが、ガルルモンは耳をぱたんと閉じて聞こえないふりをした。
 悪ガキ二体がしょっちゅういたずらしてくるのだから、これくらいの努力は仕方がない。
 
 
 
 悪ガキ二体はげんこつと説教を食らわせた後、浴場に放り込んでおいた。
 自分も兵士の水浴び場でナッツと小麦粉を洗い流す。水浴びは好きではないが、クッキー生地みたいな匂いをさせているわけにもいかない。
 少年王ルーチェモンと学友ララモンのいたずらは昔からだが、ここ1年はやたらとガルルモンが標的になっていた。何が気に入られたのか分からないが、困ったものだ。
 体を震わせて水気を飛ばし、ふうと息をつく。
「また殿下とララモンが迷惑をかけたらしいな」
 その声にはっと顔を上げると、摂政ディノビーモンが立っていた。
「摂政殿、兵士の場所までお越しいただくとは」
「いや、ちょうど城に帰ってきたところで、今日の騒動について聞いたので、様子を見に来ただけだ」
 摂政に勧められて、揃って草地に腰を下ろす。
「こう言うのは何ですが、殿下ももう十一歳です。そろそろ世界を束ねる王として、落ち着きを身につけていただきませんと」
 ガルルモンは一宮廷兵士に過ぎないが、権威者にも正直に自分の意見を述べるデジモンになっていた。そうでなければ、少年王をひっ捕まえるなんて恐れ多いことはやっていられないのだ。
 ガルルモンの言葉に、摂政はそれもそうだが、と困ったように答える。
「私も、少しずつ殿下が王として政治を執れるように教育している。しかし、君も知っているだろうが、世間の情勢は殿下に対して厳しい」
 それを聞いて、ガルルモンはうつむき加減になる。
 ヒューマンデジモンとビーストデジモンとの和平は八年近く前に結ばれた。しかし、現実には各地で紛争が起こり、城のデジモンはその調停に追われている。調停に不満を持つデジモンも多く、その目は城の頂点に立つ少年王に向けられていた。
 確かに、わずか十一歳でそんな悪意の目にさらされるのは可哀想だと思う。
 ディノビーモンが城を見上げる。
「殿下にしてみれば、城の中だけが気楽に振る舞える場所なのだろう。ガルルモンは兵士達の中でも、飽きずに相手をしてくれているし、殿下は君を気のいい遊び相手だと思っているのかもしれない」
 そんな風に見えていたのか。思いがけない言葉に、ガルルモンは目を白黒させた。俺はただ、毎回キレて追いかけまわしているだけなのだが。
 ディノビーモンがガルルモンの顔を見る。
「今後も迷惑をかけると思うが、殿下とララモンのこと、よろしく頼む」
「はっ、はい」
 摂政に頼むと言われては仕方がない。ガルルモンはおとなしく頭を下げた。
 摂政が立ち去った後、ガルルモンは城の上の方から気配を感じた。
 見上げると、ララモンが慌てて顔を引っ込めるのが見えた。ガルルモンの耳には、廊下を走っていく少年王の裸足の音も聞こえた。
 全く、また何か企んでいるのか。
 ガルルモンはやれやれと首を振った。水浴びをしたばかりなのに、またナッツまみれになってはたまらない。
 少年王達の様子を見に、ガルルモンは城内に戻った。
 
 
 
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お待たせしました! 炎の章に続き、今回からは光の章――ガルルモンの視点での物語です。
炎の章と話は前後しますが、大粛清が起こる前の光の城の日常を兵士視点で書きたいな、と思ったらこんなドタバタ展開に(笑)
今のところ、ガルルモンは「ルーチェモンのいたずらを叱るためにめっちゃ頑張ってる宮廷兵士」ですね。