十数秒、誰も何も言わない時間が流れた。
最初に音を立てたのは、俺の指だった。汗ばむ指を伸ばして、落としたデジヴァイスをつかんだ。
「信也」
ノゾムのか細い声が聞こえる。デジヴァイスを握るってことは、ノゾムの中の危険なスピリットを使うってことだ。
でも。俺は自分を落ち着かせるために深呼吸した。
「……要するに、ノゾムからスピリットを出さずにスーリヤモンだけでユピテルモンを倒せばいいんだろ。ユピテルモンがいなくなって、俺も暴走しない。それで全部解決だ」
分身がふむ、と納得したような声を漏らす。
「与えたスピリットはお前に適応して最大の力が出せるように成長する。しかし、それでユピテルモンを倒せるかどうか」
お前はそのユピテルモンの分身だろうが。親身に相談に乗ってるような反応しやがって。余裕のつもりか。
「二柱の力を合わせたユピテルモンに勝てると思うのか?」
「勝てる」
俺は顔を上げ、分身を見すえた。
「こっちの力も二人分だから」
自分の右手でノゾムの左手を握る。人形だと分かった今も、ノゾムの手からは温かい熱が伝わってくる。
「お前の話を聞いて、余計に気持ちが強くなった。ノゾムがスピリットなら……スピリットの力で進化できる俺は、ノゾムから力をもらって戦ってきたってことだ。スピリットが俺達の感情と一緒に成長してるのなら、スーリヤモンの力は俺とノゾムの二人の力だ。そう思ったら、負ける気がしなくなった」
「信也」
もう一度、名前を呼ばれた。俺は振り返ってノゾムの顔を見た。ノゾムはさっきよりも落ち着いていたけど、目はまだ不安で揺らいでいた。
「本当にそれでいいの? 僕を、僕の中にあるスピリットを信用して戦っていいの? 元になったデータは世界を滅ぼしかけたデジモンだし、スピリットはユピテルモンが作ったものなんだよ。こんな、人間でもデジモンでもない、自分でも何なのか分からない僕なのに」
「ノゾムだろ」
俺が短く言うとノゾムがえっ、と言葉を止めた。
ノゾムの不安が和らぐように、俺はゆっくりと言ってきかせる。
「何からできてようと、ノゾムがノゾムだってことは変わらない。楽しいことがあれば笑って、俺の作ったご飯を食べて、わけ分かんないことに巻き込まれたら二人して困って。そうやってここまで一緒にきたノゾムの力なら、俺は信じられる」
ノゾムは一瞬泣きそうな顔をして、それからぐっと表情を引き締めてうなずいた。
「分かった。僕も信也と一緒に戦う」
俺はノゾムと握っている手の中にデジヴァイスを滑り込ませた。立ち上がって分身と向かいあう。
分身はゆったりとした動きで両腕を広げた。
「良いだろう。ならばまずこの分身を倒せるか試してみよ。本体に近い力と知性を持った私を」
「言われるまでもなくやってやるよ。ノゾム、行くぞ」
「うん!」
二人の手の中のデジヴァイスがカッと熱くなった。俺の左手には、幾重にも荒れ狂うデジコードが生まれる。
「ホロウスピリット・エボリューション!」
「スーリヤモン!」
相対的に小さくなったノゾムを、自分の左肩の上に乗せる。俺と分身が全力でぶつかりあったら、もろい城の床がどうなるか分からない。
「しっかりつかまってろよ」
ノゾムは俺の髪と鎧の端をつかんだ。
最初に仕掛けてきたのは敵の方だった。
両手の甲に盾のようについている歯車。その歯の一本一本から光線が伸び、光の短剣の形を取る。
「《ライトニングシャワー》!」
歯車が高速回転し、光剣が次々と俺達に襲いかかる。
「《ガーンディーヴァ》!」
俺は神剣アパラージタに炎をまとわせ、振った衝撃波で相殺する。
いくら相殺しても、光剣が途切れる気配がない。撃ったそばから新しい光剣が歯車から生み出されていく。斬りかかろうにもタイミングがつかめない。
左耳の横で、ノゾムが銃を抜く音がした。
「当たれー!」
相変わらず下手な撃ち方だけど、とにかく敵の方へ撃ちまくる。
一発が敵の右腕をかすめた。右腕がしびれ、《ライトニングシャワー》の動きが鈍る。
その一瞬を逃さず、地面を蹴った。翼で加速し、一気に距離を詰める。
「りゃあっ!」
「くっ」
ぎりぎりのところで敵が歯車の盾を掲げた。首を狙った剣を、左手の盾で受け止める。金属がぶつかり合い、脳天まで響くような甲高い音がした。
ひびが入り、砕けたのは歯車の方だった。
俺は素早く手首を返し、二撃目を入れようとする。
が、敵が口を大きく開け、黒い気弾を吐きつけた。
「《シュヴァルツ・ドンナー》!」
予備動作も距離もなく、ノゾムをかばって体をひねるので精一杯だった。
脇腹にまともに食らい、大広間を一気に飛んで壁に叩きつけられる。古い石壁がボロボロと崩れる。
「スーリヤモン、大丈夫!?」
「ああ」
ノゾムの声に返事をして起き上がる。腰をひねると鈍い痛みがあるが、まだまだ戦える。
「それより、さっきの攻撃ナイスアシスト」
俺が褒めると、ノゾムは嬉しそうに肩をすくめた。
「でもごめん、また全弾撃ち尽くしちゃった」
「心配するな。後は俺に任せろっ!」
言ったそばから突進してきた敵を、俺は横っ飛びでかわした。
敵はそのまま壁に突っ込みそうな勢い。それをヤギの足で床を踏み込み、一歩で勢いを止める。
すぐさまきびすを返し、距離を取ろうとする俺へと駆けだす。
二歩目でトップスピードに乗る。分身の頭と額から伸びる三本の角が、残像となって伸びて見えた。
予想外の脚力に、俺は翼を広げ、辛うじて飛んで避けた。
デジモンが何十体と入れそうな大広間だが、あの速さで迫られると狭い。天井近くを飛び、突進の範囲外へ逃れる。
「《ガーンディーヴァ》!」
眼下の敵へ炎の刃を飛ばす。分身はすばしっこく動き回りながら、半減した光剣と黒の気弾を撃ちこんでくる。
「あいつ、空は飛べないらしいな」
俺がつぶやくと、ノゾムは敵を観察して数秒考えた。
「飛べなくても、あの脚力さえあれば僕達のいる高さまでジャンプできると思う」
「チャンスをうかがってるってことか?」
「うん。あれだけ動いてれば、遠距離攻撃は致命傷にならない」
だったら。俺は剣の炎を燃え上がらせる。
「俺達が飛びやすく、向こうが走りづらいフィールドにしてやればいいってことだな!」
炎の刃を片っ端から壁や床に叩きつける。戦いで崩れかけていた城は、あっけなく砕け、敵の上に降り注ぐ。
俺達の頭上に振ってきた天井はアパラージタで直接斬る。
優雅な名残のあった大広間は、一分もしないうちに無残ながれきの山へと変わった。
☆★☆★☆★
ども。更新遅くなりました。
なお、進化してる方が人間で進化させた方がデジモン由来です。
さて、気づけば今週末から第三章公開という。ぽろぽろ聞こえてくる予告や紹介が重い内容ばかりですが、果たしてどんな展開なのか。楽しみですね。忙しくったって週末の映画に行く時間は確保するぜっ!
それから来週末10/1にはアプモンの放映開始! 星流が一番気になるのは「ハルのクラスメイトの大空君はオーバーヘッドシュートをするのか」です(笑)だってサッカーで大空って絶対狙ってますもん!(←全然メインストーリーと関係ない)
せっかくアニメ放映があるのだから、毎週感想書きしようかな……。あ、でもテレビ東京系入らない地域の人が見たら複雑な気分ですよね(汗)ネット配信とかもないみたいだし……。
でもこう、デジフェスのリポートみたいに、実際には見られない人にも少しでも伝えようっていうのはありなのかな。
今のところ「感想書く」寄りで迷っています。「書いてほしい」「書いてほしくない」というご意見ありましたらコメントくださいm(_ _)m