〔36〕球の会話サッカーリフティング | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
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 朝食を済ませた後、拓也と泉に大輔&ブイモン、ヒカリ&テイルモンを加えた一行は歩き始めた。

「泉、あんまりムリすんなよ」

Grazieグラッチェ(ありがとう)、私は大丈夫よ。ヒカリちゃん達は? あまり旅慣れしてないんじゃない?」

「ううん、私とテイルモンは前にもデジタルワールドを旅したことがあるから」

「でも、しんどくなったら早めに言ってくれよ」

 拓也から泉、ヒカリ、大輔に会話が流れる。

「拓也も、な」

「ああ……」

 が、大輔と拓也は相変わらずつながりが悪かった。拓也は振り向かずに、肩をすくめるだけ。

 大輔としては拓也と仲直りしたいのだが、どう切り出していいのか分からない。

「ねえあそこ。何か見えない?」

 泉が進む先を指さした。草原の中に小高いものが見える。テイルモンが目を細めて観察した。

「掘っ建て小屋みたいね。デジモンの姿も見える」

「もしかしたら、輝二達のこと知ってるかも!」

 ブイモンの言葉に、拓也の足が早まる。一行は慌てて後を追った。

 小屋の前ではトゲモンが座って縫い物をしていた。くすんだ色のサッカーボールだ。何度も破れては縫い直して使っているらしい。大輔には見れば分かった。

 トゲモンは縫い物に集中していたのか、大輔達がそばに寄るまで気づかなかった。顔を上げて、驚いて立ち上がる。直したてのボールが地面に転げ落ちた。

「まあ人間さんがこんなに! 何かご用でも?」

 拓也が一歩進み出た。

「俺達と同じ、人間を探してるんだ。見なかったか?」

「あら、もしかしてトレイルモンが言ってた子達のことかしら」

「知ってるのか!?」

 拓也の顔がぱっと輝いた。

「私が会ったわけじゃないんですけどね。いつも食料や教材を届けてくれるトレイルモンがいるんですけど、こないだ会った時に『人間の子どもを乗せた』って言ってたんですよ」

「どんな子どもだった? 何人?」

 泉が続けざまに聞く。

「どんなと言われても……私達も人間は見慣れてないから、みんな同じに見えて。でも大きいのと小さいのの二人だったって言ってたわ」

 行方の知れないメンバーの中で大きいのと小さいのと言えば。

「純平と友樹だよ、きっと!」

 大輔も嬉しくなって、思わず拓也の肩を叩いた。拓也も大輔の目を見て、明るい表情で頷く。

「二人は無事だったんだ。輝二はまだ分からないけど。でもやっと知ってるデジモンに会えた!」

「それで、二人は今どこにいるんだ?」

 ブイモンが聞くと、トゲモンは困った顔になった。

「そこまでは聞いてないわ。でも明日そのトレイルモンが来るから、直接聞いてみたらどうかしら」

「うん。トレイルモンなら二人をどこまで乗せていったのかも教えてくれるわよね」

 ヒカリが言ってから、ちらりと大輔を見た。

 何? と目線で聞き返すと、ちょっと、と離れた場所を目で示される。

 二人はトゲモンのそばから離れた。ヒカリが口を開く。

「いいの? 紋章のこと聞かなくて。何か知ってるかも」

「うん、聞こうとは思ってるんだけど」

 そう言いながら、大輔は振り返る。拓也が久しぶりに嬉しそうに笑っている。やっと拓也らしい顔に戻ったと思う。

「せっかく拓也と泉が喜んでるから、邪魔しちゃ悪いかなって」

「そうね。明日までここで待ってないといけないし、後で聞いてみよう」

 ヒカリは頷いた後、大輔の顔をまじまじと見た。

 大輔は戸惑って視線をさまよわせた。大輔がヒカリを見つめているのはよくあることだが、逆はそうない。

「え、な、何? 俺の顔に何かついてる?」

「ううん。ただ、大輔くん頼もしくなったなあって。拓也くん達と旅したせいかな?」

 ヒカリが泉達の方に戻ってからも、大輔はその場に突っ立っていた。気づいたブイモンが呼びに来る。

「大輔……顔がニタニタしてるぞ」

「バッ、バカ! これはな、自信満ちあふれる男の顔なんだっ!」

 大輔は慌てて顔を両手でこすった。よし、今ならどんな敵にも勝てそうな気がする。




―――




「この辺りには人間さんが泊まれる広い家もないし、ここで良ければ一晩どうぞ」

 トゲモンの言葉に甘えて、大輔達は掘っ建て小屋――もとい学校に寝かせてもらうことにした。イスを片づければ、みんなが横になるくらいのスペースができる。

 ただで寝かせてもらうのも悪いから、と古くなっていたかやぶき屋根の修理を買って出た。ネフェルティモンやフェアリモンは空が飛べるし、エクスブイモンとアグニモンは重いかやの束をてきぱき運ぶ。大輔とヒカリ、トゲモンはかやを縛る仕事だ。


 大輔が昼寝から覚めると、太陽はだいぶ傾いていた。疲れて壁にもたれて、そのまま眠り込んでしまったみたいだ。

 ぽす、ぽす、とリズミカルな音が聞こえる。大輔は立ち上がって音のする方へ行った。

 学校の前で、拓也がリフティングをしていた。古いサッカーボールが飛んでは落ち、飛んでは落ちる。右、左、もも、頭。

 拓也と大輔の目が合った。ボールを蹴ってよこす。大輔は驚いたが、体が反射的にボールを受け止めた。胸で受けて、右足の甲に落とす。

「他のみんなは?」

「トゲモンと肉リンゴを取りに行くって。大輔は寝てたから起こさないでおいたんだ。俺は留守番」

 大輔がパスすると、拓也はももで受けた。右もも、左もも。行ったり来たり。

「あのさ、大輔」

「ん?」

「ごめんな、昨日の晩怒鳴ったりして」

 出されたパスを、大輔は右足で受ける。

「気にすんなよ。それだけ友樹達のこと心配だったってことだし」

 大輔が高く上げたボールを、拓也がおでこの上に乗せた。そのまま器用にバランスをとる。

「友樹達のこと分かってから謝る俺も情けないとは思うんだけど。ボコモン達のことも、友樹達が行方不明になったのも大輔のせいじゃない。俺が誰かにぶつかりたかっただけなんだ」

 拓也のヘディングは、大輔の少し手前に落ちた。草原の中では転がることもない。

 大輔は足を伸ばしてそれをすくい上げた。

「だから気にすんなって。俺だって仲間がいなくなった時は似たような感じだったし」

 ヒカリが逃げ遅れた時、大輔は後ろにいたタケルをなじった。冷静に考えれば、タケルが悪かったわけじゃなかったのに。

 それを思えば、拓也の昨日の言葉を批判できない。

 大輔のパスを、拓也が右足に乗せる。そのまま数秒止まる。

「紋章が見つかったら、お前達は帰れよ」

 ぽつりと出た言葉は、昨日と似ていても優しかった。

「本当なら、俺達と大輔は会うはずじゃなかったんだ。大輔に頼らなくても、俺達はきっとやっていける。だから大輔は、自分の世界を守れよ」

 拓也からのボールを、大輔は手で受け止めた。落とさないように強く抱え込む。

「ああ。ありがとな!」


「おーい大輔ー!」

 声に振り返れば、ブイモンが手を振っていた。一行が肉リンゴを抱えて帰ってくる。

 拓也が大輔を見る。

「そうだ。紋章について知らないか、俺からトゲモンに聞いてみるよ!」

 大輔の返事も待たず、拓也は駆け出していった。




◇◆◇◆◇◆




言葉のキャッチボールならぬパス練です。背景は夕日。これ大事。


先日、公式のツイッターに釣られて無印のLINEスタンプを入手してしまいました。だって、かわいかったんですもん……。

残念ながら、二次元趣味をひた隠しにしている星流にこのスタンプを使う場面は訪れないのですが(泣)