UPできるレベルの小説を書けるほど暇がない、しかし何も更新しないのは忍びない。
そんな時のための、気楽に書ける旅行記です←
もう1年経っちゃいますねー。小説優先だから旅行記は全然進まないや。
さて、今回は予告通り、星流がドイツ人とサシで話した時のお話です。ちょっと難しい勉強について。
星流と陽菜がドイツに行ってから一週間ほどが過ぎ、曲がりなりにもドイツに慣れてきたある日。
おばさんが用事があって星流達に同行できないということになり、お友達のドイツ人男性にガイドしてもらうことになりました。若手の学者さんだそうで、背も高いし知識もある方でした。ドイツ語と英語だけでなく、おばさんから日本語も教わっていて、簡単な会話であれば日本語でできました。
星流も高校までで覚えた英語を駆使してコミュニケーションをとります。
その日、向かった先はサッカーグラウンド。屋根がない上に寒い風の吹く中でしたが、サッカー命の陽菜は「それでも行く!」と寒さの中観戦に向かいました。
星流? ふふ、ムリムリ。寒い中立ってるだけとかムリ(笑)
男性と近くの食堂で待っていることにしました。
陽菜が戻ってくるまで暇なので、二人で話をしました。日本語と英語をごちゃまぜにしつつ。
男性(以下男)「星流さんは学生ですか?」
星流(以下星)「いえ、もう卒業してます」
男「学校ではどんな勉強をしていたんですか?」
星「大学では○○を」
男「高校は? 日本語(=国語)の授業ではどんなことを教わるんですか?」
星「えっと、現代の言葉の小説とか、説明文とか。あと古い言葉の文章も勉強します。中国語の文章を日本語で読む勉強もしますよ」
男「え!? 中国語を日本語で読む!? 中国語を勉強するのとは違うんですか?」
この時点で、やっべ、と思う星流。日本で漢文勉強してると慣れちゃいますけど、よく考えるととんでもないことやってるんですよね。中国語知らなくても内容分かるっていう。漢字を輸入した文化だからできる荒業です。
でも、ヨーロッパ圏の人からすれば
「ドイツ語の文章を英語を使って読みます」
と言われるようなものなんでしょう。滅茶苦茶驚かれました。
で、その次にくる質問はもちろん。
男「どうやって中国語を日本語で読むんですか? 教えてください」←ノート準備
ちょっと待てここで漢文の基礎を授業しろってかー!? しかも日本語と英語駆使しながら!?
自分が口を滑らせたとはいえ、ハイレベルの問題が巻き起こりました。陽菜はまだまだ帰ってこないし、相手の熱意を見ると無下に断れないし。
あ゛ー、こうなったらやってやろうじゃないの。
腹をくくってノートとボールペンを借ります。
星「こんな風に漢字があります。普通は上から順番に読みます。漢字に振り仮名を振る時はここに書いて……レ点があったらこの順番で読んで……一、二と書いてあったらこの順番で……」
日本語だとうまく通じないようだったので、途中から英語主体に切り替え。と、書くと簡単に聞こえるかもしれませんが。
実際に漢文の基礎を英語で説明しようとしてみてください。
超・難しいですから。
教科書が手元にあれば楽ですが、もちろん旅行に持ってってなんかいないし。電子辞書を時々引きながら、必死に説明します。
今までの英語の授業で「自分の故郷を紹介しよう」とか「名前の由来を説明しよう」なんて課題はありましたけど、「漢文の仕組みを説明しよう」なんて課題はありませんでしたよ。
実践英語って、難しいんですね……(遠い目)
しかし! それでも! 努力のかいあって!
男「なるほど、およそ分かりました」
星(やった!)
どうにか納得してもらい、調子づく星流。
そして、そのまま調子に乗りました。
星「じゃあ実際の漢字で説明しますね! (えーと、あ、そうだ。おばさんの家に四字熟語の掛け軸があったっけ)」
笑門来福……っとノートに記入。読んでそのまま、「笑う門には福来る」です。
まず漢字それぞれの意味を説明。
それから、笑の後にウをつけて、来と福の間にレ点をつけて、と説明していきます。
……しかし、どうも男性の表情がすぐれない。
星「どうかしましたか?」
男「どうして福(happy)が門(gate)に来ると家の人が幸せになるんですか?」
星「え?」
男「門と家は別のものです。どうして門に来ることが家に来ることとつながるんですか?」
星「え、だって門と家はセットじゃないですか。門まで来たら家までそのまま……」
男「???」
星「???」
どうやらドイツ人の感覚だと「門(gate)」は「門」、「家(house)」は「家」で全くの別物。門に来ることと家に来ることも別。
対して日本人の感覚だと門と家はひとつながり。門まで来たなら家まで来たようなものだよね、という感じ。
この微妙なニュアンスで通じ合えず、二人で混乱に陥りました。
昔英語の先生が「単語の意味をそのまま訳しただけでは、単語そのものの持つニュアンスを訳しきれない」と言っていましたが、その理由がようやく分かりましたよ……。門=gate、家=houseだけじゃ訳しきれない何かが確かにありました。
どうにかこのニュアンスを説明しようとしましたが、「どうやら相手はこんな感覚でいるらしいけど、それを自分が理解することはできない」というところまで行くのが精一杯。
陽菜が「お待たせー!」と帰ってきた頃には、星流はすっかり力尽きていたのでした。
言葉と文化の交流が、こんなに難しいものだったとは……。でも、漢文の特殊さだったり、日本人のふわっとした言葉の使い方だったり、他文化と会って初めて分かるものってありますね。
そんな発見は、複雑な勉強の面だけではありません。
日常での決断の早さや結婚の考え方にも――。
と、長くなるので続きは次回。