〔9〕炎の町 七人の旅立ち | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

「あまり長くはいなかったけど、離れてみるとちょっとさみしいな」
 炎の町の方向を振り返り、拓也がつぶやいた。既にその姿は地平線の向こうに消えた。沈みゆく夕日は、ちょうど炎が燃え盛っているように見える。
 ヴォルフモンの誕生から二日。大輔達は炎の町を旅立った。ここにはもう、他にスピリットはないと判断したからだ。
 その証拠に、大輔とブイモンを混ぜた六人で町を隅々まで探し回ったのに、スピリットの影を見る事も、拓也達のデジヴァイスが反応する事もなかったのだ。

「俺達のデジメンタルの時みたいに、世界中にばらばらになってるのかもな」

 ブイモンが大輔にだけ聞こえるように言った。

 大輔も頷く。

「そうだな。デジメンタルが同じところにあったのなんて、ホークモンとアルマジモンの時だけだったもんな」

 デジメンタルとスピリットの状況が全く同じだとは言い切れないが、似たような状況になっている可能性は高い。


「それはそうと――」

 最後尾を歩く純平が後ろを振り返った。

 そこには当たり前のように後をついてくるデジモンが二体。

「お前らどこまでついてくるんだよ?」

 純平の言葉に、ネーモンが腕を組み考え込む。

 数秒後。

「……どこまでなの?」

 隣のボコモンに聞いて、《ゴムパッチン》なるものをくらっていた。技の一種のようにも思えるが、実際はネーモンの股引きを思い切り引っ張って離すという単純な嫌がらせである。

 しかし単純な割に相当痛そうな音がして、大輔は思わず肩をすくめた。

 何事もなかったかのようにボコモンが口を開く。

「この世界に本物の『人間』が来るなんて今までになかったことじゃ。あんたらはきっと伝説になるようなとんでもないことをやるに違いない。だからわしらはそれを見届けるためについていくんじゃハラ!」

 つまり歴史の目撃者にして記録者といったところじゃな、と最後は自慢げに鼻を伸ばした。

「伝説になるような、ねえ……」

 泉が困ったようにボコモンを見下ろす。友樹が意見を求めて視線を動かすと、拓也は肩をすくめ、純平はそっぽを向いた。

 この世界の右も左も分からないのに、無駄に大きな期待をされても反応に困る。

 伝説、と聞いて大輔の頭に思い浮かんだのは、年上の選ばれし子ども達だった。サッカーチームの先輩を始めとする彼らは二年前に闇を払い、デジタルワールドを救った。あのデジタルワールドでは、先輩達を知らないデジモンはいない。そういう意味では、彼らも偉大な伝説に違いない。

 先輩達のようになりたいとは思っていたが、自分は伝説になりたいと思って頑張ってきたんだろうか? それは違う気がする。じゃあ正確にはどうなりたいのかと聞かれたら良く分からないのだが。


「嫌よ、絶対そんなの嫌っ!」

 突然金切り声が響いて、大輔は慌てて声の方向を見た。

 拓也と泉が何やら言い争っているらしい。

「だって、しょうがないだろ。もう日も暮れるし、泊めてくれそうな家も見当たらないんだ」

「だからって、野宿なんてありえないわよ!」

 どうやら今日の寝床を巡って泉がごねているらしい。大輔の知っている女の子二人に比べると、まだまだ未熟というかなんというか……。ヒカリは前の冒険で慣れている分どこで寝ようと気にならないらしいし、京は疲れていればどこだろうとバタンキューである。

 大輔は泉達に歩み寄った。

「まあまあ。泉もそんなに駄々こねるなよ。野宿も慣れれば気になるもんじゃ――」

「もう! 大輔も拓也の味方なの!?」

 泉の目が吊り上がる。

 どうやら油を注いだだけらしい。

「いいわよ、もう! 男の子達は野宿でも何でも仲良くしてればいいじゃない! 私は泊めてもらえそうな所を探すから!」

 泉はつんとそっぽを向いて、足早に歩きだした。

 唖然としていた純平が、駆け足で後を追った。

「危ないよ、泉ちゃん一人じゃ。俺も一緒に」

「ついてこないで」

 泉の答えは容赦なかった。

 地面にのの字を書く純平を放置して、泉は肩をいからせ歩いて行ってしまった。

「……本当に追いかけなくていいの?」

 心配そうに見送る友樹に、拓也は片手をだらしなく振った。

「いいんだよ、ほっとけば。それより、俺達も寝る場所探そうぜ」

「俺も腹減ったよ~」

 ブイモンが腹の虫を鳴かせながら訴えた。

 そうだな、と返事をしながら、大輔は辺りを見回す。


 と、泉がこちらに戻ってくるのが見えた。何かいいことでもあったのか、嬉しそうにスキップまでしている。

「何で戻ってきたんだよ」

 拓也につっけんどんに言われても笑顔は崩れない。

「実は、向こうの崖の下に明かりを見つけたの。デジモンがいるのも見えたし、きっと村か何かがあるのよね~」

 男達+デジモンの視線が一気に泉に集まった。

 泉は体の後ろで手を組んで、その場で半回転する。

「私は今晩はベッドで寝られそうかな。もちろんみんなは野宿したいっていうんなら楽しい野宿をすればいいと思うけど……」

 男達が黙って目を見合わせる。

「よし、暗くなる前にその村に行くぞ!」

「オーッ!」

 拓也の号令で全員が駆け足になる。

 一瞬置いてけぼりにされた泉。大声を出しながら追ってくる。

「言っとくけど、見つけたのは私なんだからね! 全員、まずはお礼を言いなさいよ~!」




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何か大事なもの忘れてないか、ですって?

気のせいですよ~(笑)←