悲しかった日



お酒を浴びて、服も、布団もびちゃびちゃになり

さむくてさむくて
しかたなかった日


お母さんがきて、
かなしい顔して僕の服をぬがした


勇気をだして、
こう言った


さむい、
おなかいたい


そうすると、お母さんは
立ち上がって部屋の外へかけてった


そのあと
壁の向こうから、あのひとの低い怒鳴り声がして
いやな空気をかんじて
かたまった


お母さんがおこられている


僕のせいだ




そして、部屋にお母さんがゆっくり入ってきた
さっきとちがうのは
後ろに、あのひとがついてきたことだ


お母さんはしずかに僕の前にしゃがんで

きこえないような小さい声で
言った




言っちゃダメ



お母さんはいつもよりずっと
悲しい目をしている



さむいとか、
いたいとか、
言っちゃだめ



震えた声でお母さんは言った


まだ、あのひとはお母さんになにかを言った


それから、
たすけて、も言ったらだめ


お父さんにだけ
言って


お母さんはそう言った


僕はうなずいた


ごめんなさい


まだ、あのひとはお母さんになにかを言う


そしたらお母さんは
すごく小さく、右手をだして
僕の頬をたたいた


よわくて、
優しい手で


ごめんなさい、と僕は言う


まだ、あのひとは立ったままだ


僕はお母さんをじっと見つめた


あのひとが言う


本当人形みたいに表情かわんねえ子供だなあ
冷めた目しやがって


お母さんがさっきより強く
頬をたたく

 
僕はお母さんから目をはなさない


お母さんは、
ぼくのみかただ


お母さんはすっと立ち上がって
部屋をしずかに出ていった


おまえ、人形だな?


笑ったり泣いたりできねえの?


ごめんなさい


綺麗な顔してるけど
中身はない
人形だな?
笑って俺にキスしてみろ


僕はせいいっぱい笑って、あの人にキスをした

そうすると蹴られて
飛ばされた


ちゃんとやれ


毛布持ってきてやるから
ちゃんとやれ



僕はあのひとが持って来てくれた毛布に
くるまり、あのひとが許すまで
頑張ってわらって
よろこんでキスをした


そのあとあのひとはつかれたのか、よっぱらってたからか、そのまま
僕の部屋で寝た


僕はねているあのひとの中で
あったまった

ちかくに臭いバケツがある

僕は うまくころがりバケツ側にまわり
あのひとがあやまってそれをたおすのを
ふせいだ


毛布はあたたかくて
あのひとのからだも あたたかかった



毛布をくれて
お父さん
ありがとう




お母さんがのぞいて
ぼくは寝たフリをした



僕のせいで、おこられてごめんね
きらわれてしまった
ゆるしてほしい



でも、それも言えない




なにも言えないぼくは
本当に
僕は、人形なのかもしれない



よっぱらったお父さんのとなりにおかれた
人形なのかもしれない





僕はきっと、
かなしかった


かなしい、と分からなかった




きっと、からっぽの人形だった











もっとわらえたり 
泣いたり
言えたり
人間らしくできたら


家族にしてもらえましたか