ねぶとり | 不思議なことはあったほうがいい

 『絵本百物語』(桃山人夜話)に「寝肥」として登場。 

 絵だけみると、オデブな女性がどしーんと寝転がっているだけなので、「どこが妖怪?」となる。

 食っちゃ寝食っちゃ寝ばかりして、キモチワルイほど太っちゃった人‥‥と勝手に思っていたら違った。

 ふだんはとってもキレイなスラリとした美人だが、床に入ると一転、デーンと「太る」。

 本来なら、ふとんの七割をダンナにあげて、自分は三割でよりそう‥‥というのがオンナのあるべき姿勢だが、この「ネブトリ」になると、その逆で、フトンの七割を占領し、ダンナはキュークツになってしまう。おまけに、イビキはガーガー。寝相は悪い。……妖怪にとりつかれている、と思わなくてはいられない……。一説ではタヌキに憑かれたのだとも。ネブトリとは「寝・布団・取り」かも。


 そもそも、オンナだって人間だから、欲もあれば、生理もある。キラビヤカな表にはウラがある。

 そのウラをも、愛せなくては女房になどできんのだ。でもね、普通はそういう本性は一緒になるまで隠しておくもの。

 貝原益軒『和俗童子訓・女子に教える法』(通称・女大学)に曰く―

「婦人には三従の道あり……父の家にありては父に従い、夫の家にゆきては夫に従い、夫死しては子に従う」

 あまりに有名な封建的文言だが、夫が先に死ぬことを前提にしているのがおもしろい(^^)。


この書には女がしてはならない七つの悪があり、これをなすと、離縁されても仕方がないという。

1.父母に従わない 2.コドモができない 3.淫乱である 4.嫉妬ぶかい 5.悪い病気がある 6.口数が多い 7.夫の財産を盗む……このうち2と5は本人の生まれつきのことなので、そんなに目くじらたてんでもよい、と一応フォローされてはいる。

6については「女の男子の如く物いうことを用いるは家のみだれとなる……禍は必ず口より出づ。戒むべし」

つづいて、親が娘に教えておくべき13ケ条として、

1.夫の家では舅・姑を自分の親よりうやまえ。

2.婦人に別に主君なし。夫を主君とおもって敬いつかえよ。

3.小姑には自分の姉のごとくへりくだれ。

4.嫉妬の心ゆくゆく起こすべからず。もし夫が浮気しても、業平の妻のごとく、道中の夫の身を案じろ「はらたつことあれば、おさえてしのぶべし、色にあらわすべからず」

5.夫が浮気しても、へりくだっていせめよ、それでも直らなければ、後日気を静めてからまたいさめよ。「顔色はげしく、声をあらげ、心気をあらくして、夫にさからい、そむく事なかれ

6.言葉つつしんでつつしみぶかくせよ

7.家事に心つくし、怠るべからず。40歳まではお祭りとかの外出もひかえよ!

8.みだりに宗教にハマるな

9.倹約につとめよ

10.親せきといえど、夫いがいの男と仲良くするな、手紙などもってのほか

11.派手に着飾るな。年齢よりヤヤ上の格好がよい。

12.自分の親をひいきするな。正月のあいさつは夫の親を優先

13.下女はとかく悪い噂を流すから踊らされるな。


……ハア。

まあ、こんなのあくまで「理想論」であるから、これをホントウに守っていた女性がどんだけあったかしらないが、こういう「道徳」というのは、どうしても気になるもので、やっぱチョットは遠慮したり、ガマンしたりってことは頻繁だったろうな。ウチのママがそうだった。

「催眠療法」というのがあるように、人は寝ているときにときとして、自分自身忘れているような自分本来の姿を現すことがある。

ガンジガラメのキュークツな生活を精神的にも強いられていれば、寝ているあいだに寝相が悪くなったり、旦那以上にイバッテみたくもなるもんだ。

 

同じ『絵本百物語』には傾城の美女もオトコをたぶらかす妖怪「飛縁馬として紹介されているが、ここにいいことが書いてあった。


「化粧とはバケ・ヨソオフことなり。一休和尚、女の化粧するを見給ひて、狐の藻をいただきて、シャレコウベをかぶり、美女に化けるに異ならず、と云へり」


オンナにかぎらずだがだれでも本性は隠しているのだ。