◆窒素肥料について◆
高校で化学の授業を受けたことのある方は絶対耳にしたことのある「ハーバー・ボッシュ法」。
これは、四酸化三鉄という触媒を使い、400℃という高温下、普段生活しているときの350倍の圧力をかけることで、窒素と水素をアンモニアへと変化させる方法です。
端的に言ってしまえば「ハーバー・ボッシュ法」は、アンモニアを作る方法です。
この方法は、1909年にドイツの化学者「フリッツ・ハーバー」「カール・ボッシュ」の二人が発見しました。
アンモニアは爆弾の原料でもあります。
真偽のほどは定かではありませんが、この方法で作られたアンモニアがあったから、ドイツは第一次世界大戦を始めたともいわれています。
アンモニアは爆弾の原料であるとともに、窒素肥料でもあります。
2008年現在、世界の48%の人(約30億人)がハーバー・ボッシュ法で作られた肥料を使用した作物を口にしているそうです。
しかし、近代的な肥料は非効率であることもわかっています。
穀類は畑に与えた窒素肥料のうちの4~7割しか取り込まないからです。
また、肥料を使用した際に必要になる農薬の製造量は、1962年に『沈黙の春』が出版された後2倍に増え、その後現在に至るまでに更に倍になっています。
■意味のない肥料を減らすには■
肥料を用いると、植物は頑張らなくなり、弱くなってしまいます。
結果として、農薬を使用しなくてはならないのです。
そして、肥料の使いかたにも問題があります。
少しでも畑に多くの肥料があった方がいいと考えているせいなのか、土全体に行き渡るように大量に撒くことが多いです。
しかし、株元だけに肥料を施したものと、同じ量の肥料を畑全体にすき込んでで生育を比べたところ。
株元だけに施肥したものはぐんぐん生育して着果が良いのに対し、畑全体にすき込んだほうでは生育、着果とも劣っていたとのことです。
この差は根っこに要因があります。
肥料を株元付近にしかやらなかったほうは、肥料を施さなかった横方向にまで根が伸びていて、しかもこの根のほうが深く張っていました。
つまり肥料を使用する場合には、「畑全体に」ではなく、「根が吸収可能なところに」施用すればよいということです。
根には大きく分けて二種類あり、「養分を吸収する根」と「水分を吸収する根」です。
水分を吸収する根は、下の方へと伸びていきます。
対して、養分を吸収する根は横へと伸びていくのです。
このことを考慮しても、効率よく成長してもらうには"深く"ではなく、"周りに"が大切になってくると思います。
◆肥料を使うデメリット◆
「硝酸態窒素」が植物の遺伝子に作用し、マメ科の根粒菌など植物と共生して植物の成長を助けてくれる微生物の定着を抑制するメカニズムも明らかになってきているそうです。
多くの化学肥料は、「アンモニア態窒素」から微生物の働きによって「硝酸態窒素」へ変化し吸収されます。
しかし、いくつかの野菜は「アンモニア態窒素」の前の「可給態窒素」と称される状態のときでも吸収することが分かってきています。
「可給態窒素」の状態を経るのは堆肥や有機物なのですが、化学肥料に比べて水にも溶けにくいため、吸収されることなく流れて行ってしまうことも少なく、一度にすべてが吸収される状態になるわけでもないので窒素が多すぎる状態になることも極めて少ないです。
加えて、化学肥料を多用する農法では、根粒菌などのエンドファイトと植物が共生関係を結ばないことが多いため、エンドファイトの活躍は厳しいです。
現代農業はものすごく能率的というわけではないかもしれないが、土壌とそれを支える生物を傷つけることにおいてはきわめて効率がいいことがわかっている。
『土・牛・微生物 文明の衰退を食い止める土の話』p92
みんながみんな農芸化学の時流に乗ったわけではないが、専門家が進む大学、企業、政府機関の研究者は、有機農業を近代科学以前の時代への逆行として片付けてしまう傾向があった。1950年代には、農務省は全力をあげて化学農業を支援するようになっていた。
p159
これと同じことが日本で起きていることは否めません。
実際、農大の教授に「有機農業では3000万人しか養えない」「江戸時代に逆戻り」という風に言われたことがあります。
どうしたらいいのか、慣行農法にまつわる3つのことに関して記した後、書いていければと思います。
▲農家の体験▲
土地柄なのか家庭菜園をされている方が近くに多くいるのですが、隣の畑で栽培している方にミニトマトを食べさせていただいたことがあります。
その方は、お孫さんが畑で獲って食べるから「農薬を使わず」「有機肥料を使っているんだ」と語っていたので少し期待していただきました。
触ってみた感じは収穫したてなのに、数日常温で置いていたようなブニブニとして柔らかく、食べてみると甘味はなく、酸味が少しある水っぽいものでした。
他にも中玉や大玉トマトもいただきましたが、大きさが異なるだけで味や食感に関しては似たり寄ったりでした。
そのトマトを育てているところから見える範囲で私たちも育てていたのですが、真っ赤に熟したものでも、歯ごたえはしっかりとしていましたし、甘みがあり、十分満足いくものでした。
気象条件がほとんど同じなのに、なぜ水っぽくなるのか。
栽培について考えてみると大きく異なるのは、品種と肥料だけでした。
しかし品種が異なるということならばミニトマトも中玉、大玉トマトが似たようになるのは説明が付きません。
前後作や、栽培年数も関係しているのかもしれませんが肥料を入れたからと言っておいしくなるわけではないことは身をもって実感しました。
他の家庭菜園をされている方からタマネギをいただいた際のことです。
見た目は普通のタマネギなのですが、皮を剥くと白い可食部の内側に茶色い皮が一層あったことがあります。
いただいた4、5個すべてがそんな風なタマネギで調べてみたのですが、原因はわかりませんでした。
ただ話によると化学肥料をしっかりと使って栽培されているということで、それが原因なのではといぶかしんでおります。
ちなみに、肥料をほとんど使わずに育てると、包丁を入れたときに分かります。
細胞が緻密で刃を押し返すような感じがします。
そのまま、刃を入れると刃の両面に力がかかっているように感じます。
品種によるのかもしれませんが、煮込んでも歯ごたえがしっかりとしていました。
肥料を使っていないからといって特に甘みが強いということはありませんでした。
ある農大のOBが松茸を育てて販売している会社に就職したそうなのですが、その方は松林に生えた草を枯らそうとし、石灰窒素(化学肥料でもあり、除草剤でもある)を撒いたそうです。
そして、草だけでなく赤松も一緒に枯れ果てたそうです。
□参考書籍□
『土・牛・微生物 文明の衰退を食い止める土の話』 楽天市場 Amazon