恋鯵の煮物 | ニューヨーク狂人日記

恋鯵の煮物

1日が始まる。
ノートへ向かう。
何の材料も、思いもなく。
ただ、ペンを動かしていく。
準備体操のようなもの。
だからタイトルはない。

長い間「ジャンプ・スタート」と呼んでいた。
近頃では「アイドリング・トーク」とも。
「徒然なるままに」、そうつぶやく人もいる。



この小さなノートを買って1週間。
万年筆の整備、インク組み合わせで苦悩。
そんな間に
機種変更後うまくいかなかった
携帯のメモ・アプリが使えるようになったり。
いまだにボイスレコーダーを使っていたり。

いくつものことが
マイナスにプラスに揺れながら同時進行。
新しいノートには名前を書いただけで。

恋焦がれていたインクと一緒になった万年筆も
今のところは快調に飛ばしてくれている。
さて、どれくらい「心地良く」書けるものか。
書き続けることができるものか。
(窓の外、落ち葉が大きく渦を巻く)
ペンだけではなく、
違うブランド、初体験のノートとの相性は?
とりあえずインクの裏抜けはないみたいだ。

そんなわけで、今日のジャンプ・スタートは
普段とは違うこのノートで。
使途から外れてしまうが、
最初の一歩を踏み出さねばどこへもいけない。
いつまでも使い始めそうにない。
そんな予感も少しあるので。
バージン・スノーにゴム草履で足跡を残す。

「おや!?」
ここまで書いてきて
インクの流れががついてきていないような気がするが……。
大丈夫か?
おい。

まあ、このペン+ノートの組み合わせは
文章ではなくてメモが主だから
大丈夫といえば、大丈夫。
浮かんだものを消えてしまわぬうちに。
手のひらに落ちた雪の結晶を
慌ててアイスボックスへ放り込むようなものだから。
消えてしまわぬうちに。

それでも
言葉が、
ほんのひとコマの画が
浮かんだその時に文章の形が見えてくることがある。
そんな時に
文章という形で残しておきたいからこそ
こうした形状・大きさのノートを選んでいるわけだから。

書き進めながら
指先にストレスを感じてしまい
気持ちがそれてしまうのはいやなんだ。

少し太い字になってしまうけれど、
次は一番出番の多いペンで書いてみようか。
でも、今握っているペンの意味は
わざわざ買い求めたのは、
キャップを外す煩わしさのないというところだ。

ノック式だから浮かんだ次の瞬間には
ノートに雪を定着させることができる。
それは魚と同じで
釣り上げた次の瞬間から
劣化が始まってしまう。

キャップを外し
正しい位置であることを確認して
ペンのお尻に差す。

そんな1秒程度の時間に
感じ、思い、考え……
そんなものたちが姿を変えてしまうことがある。
雪が溶ける。

だからこそ
本来ならば感じたことのそのすべてを
文章として残しておくのがベストなんだ。
醤油やワサビをつけぬ刺し身は旨くはないかもしれない。
それでも
釣り上げた次の瞬間にパクリ。
それが本当の魚の味なんだよ。
良くも、悪くもね。

もちろん釣り上げた魚を吟味して、
刺し身ではなく干物にしたり
煮たり、焼いたり。
それだって美味しいのだけれど。
今のキミを食べてみたいんだ。



ノートを開く前にPCの電源を入れておいた。
ブラウザを立ち上げ、
気になっていた検索ワードを叩く。
朝から今晩のおかずのことを考えていて。
「濃い味の煮物」

元々は濃い口の味付けなんだが
レストランでのバイト、
周囲への気遣い、
最近では柄にもなく健康のことなど
いつのまにか「自分」を薄味に修正している。
本当の自分、濃い味、の感覚が薄れている。
タイムマシンに乗って取りに戻るんだ。

濃い味を好きな人がいる。
「うまい」
そんな顔を見たくて。
やっぱり笑顔が見たいから。



ノートを書いている間
そんなことは忘れていた。
$ニューヨーク狂人日記
このペン(+インク)とノートの相性はよさそうだ。
うん、なんとかなる。

そして頭の中で変質を始めていることに気づく。
いつのまにか
「恋鯵の煮物」になっていた。
Love LoveなHorse Mackerel

ほら、雪が溶けてきた。


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