悪魔に売った魂 | ニューヨーク狂人日記

悪魔に売った魂

「ただいま」
「ねぇ、ビールもいいけど先にシャワー浴びてきてよ。すっごく蒸し暑かったんだから」
……
「おい。どうだった学校は?」
「フツー」
「ねえ、父親参観には来られそうなの?」
「そんな先のことはわからないな」



雨は終わったみたいだ。
気温は一挙に80度台に上がる(28C程度)。
夏だ。

天気予報はばかにできない。

「夕方には雨でしょう」
昨日、焼鳥屋で飲んでるといきなりの豪雨。
ビールをあと1本注文してやむのを待つ。
30分ほどでやんだ。

天気予報はばかにできない。



夏。
苦悶の季節が今年もやってきた。

ネコくんたちはもうベッドでは寝ない。
ヒンヤリとした台所のタイルで長く伸びている。
そのきもちはよくわかる。

夏。
苦悶の季節が今年もやってきた。

3年間こんな夏がつづいている。
そして来年もきっと。
まったく自分がいやになる。
そのくせ忘れるのも早い。
1週間も経てば黒いプラスチックは、
ほこりをうっすらとかぶりながらも仕事をつづける。



悪魔と取引をしてきた。
数時間前には慈父の笑みを浮かべていた男が。

夏に足音はないけれどやってくるのを感じている。
そして自然のことは自然にきくのが一番正しい。

「ミャ~~~~」
せがむような声を何度も繰り返す。
<粘り勝ち>という言葉が通り過ぎていった。
いつも負けてしまうんだ。

缶詰を開ける音に他のネコくんたちも集まってきた。
窓辺に置いている器を取り上げてみると。
夏が来ていた。
今年も。

1mmほどの無数のアリたち。
乾燥ゴハンの上に、下に。
懸命に仕事中。

殺すのはしのびないので、
キャットフードを一粒ずつゴミ箱へ捨て、
「トントンッ」
それでも逃げ遅れたアリたちを窓の外へ逃す。
これくらいは許しとくれ。

缶詰を容器にあけたその手でぺんをとる。
”アリ・コンバット”



誰が考えたんだろう?
こんなざんこくな化学兵器を。

穴を通ったアリたちは薬品に感染をしていく。
それだけならまだしも、
アリたちはすぐに死んでしまうわけではなく
「ああ、なんかダルイな~」
感じながらも会社へ、家へと帰っていく。
同僚に、家族に二次感染がはじまる。
その群れは死滅してしまうんだろう。
殺虫剤なんていうその場しのぎなんて子供だましに等しい。

鉄砲玉をあごで使うヤクザの親分はどんな気分なんだろう?
ミサイルのボタンを押すというのはこんな気持ちなんだろうか。
刀で、槍で人を殺さなくなった人間は確実に摩耗をしてしまっている。
生という、生命という感覚が。

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やっと郊外に買った一戸建て。
5時に起きた父親は今日も電車に揺られてることだろう。
子供は学校へ、母親は買い物へ。
「だるい……」
つぶやきながら悪意のかけらもなく人々に広めていっていることだろう。

父親参観日まであとどれだけの生命が残っているというんだ。
そんな町がそこにも、あそこにも。

共存。
人間が作り、口にする言葉はきれいごとにすぎない。
そんな中で生きていかなくてはいけない。
あー、つらい。

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アリを寄せつけない秘策を知る人、どうか教えて下さい。

ああ、暗くなってしまった。
あと1本飲もう。
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