先の「伊勢大神楽〝入門〟体験記」より1年が経過――。

中條さんから最新のレポートが届きました。

「大神楽巷談 其の壱」として3回に分けて、ご紹介いたします。

 

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「大神楽巷談 其の壱」(その1) 山本真之介(文・イラスト)

 

 大神楽師の中條真之介、改め山本真之介でございます(1)。

 私の所属している伊勢大神楽山本勘太夫社中は、毎年2〜4月に滋賀県の守山市を中心として巡業を行っています。また、昨年より他の社中と合同で宿に住むこととなり、竜王町の神楽宿にて計11人での共同生活が始まりました。

 今回は伊勢大神楽の紹介も兼ねて、神の名前や舞の用語に関して興味深いと感じた箇所をまとめてみようと思います。

 

◇天木綿筒命(アメノユウヅツノミコト)

 伊勢大神楽の獅子は名前を「天木綿筒命」といって、天照大神(アマテラスオオカミ)の使いであるとされています。『伊勢太神楽由来ノ抜キ書(イセダイカグラユライノヌキガキ)』によれば、大海人皇子(オオアマノミコ)が大友皇子との戦の最中に増田庄にて天照大神を遥拝した際、霊夢に示現して助力を誓ったそうです(2)。神楽では邪気や悪魔を祓う役割を果たしており、舞の演目によっては天狗(猿田彦)の先導で天地四方を祓い清めるものや(四方の舞)、花魁の姿をとって艶やかな姿を見せ、最後にはアメノウズメに変身して舞台を後にするもの(魁曲)もあります。

 

 

 また、伊勢大神楽の獅子は赤い顔に青の幕がついているのが特徴で、これは獅子が金星の化身であることに由来しています。獅子のデザインは黄昏の空に輝く宵の明星をモチーフとしており、赤い顔は金星を、そして青い幕の方は紺色と淡青色の二色で構成されているのですが、これは太陽が沈む前と沈んだ後の空の色を表しています。この金星の化身としての獅子・天木綿筒命は、はたして日本の神々の中でどのように位置づけられるのか、そしてどの時代に淵源をもつのか。(つづく)

 

(1)山本姓の継承 2023年12月23日の増田神社神講をもって、山本勘太夫社中所属の大神楽師は各々の姓を神に献上して、山本姓を授かることになりました。これは今後の大神楽業界の存続を念慮して、かつての伝統の再興を試みたものです。現在では業界全体で血筋による家元の継承が困難な状況に直面している中、過去の家元が見込みのある弟子を養子にして家を存続させていたことから、各社中における大神楽師は家元の姓を与えられ、さらに一定以上の職位に達した者はいずれ太夫名を名乗ることを目指して、名の方も「〜太」という形で改称することとなりました。ちなみに伊勢大神楽における職位に関して付言しておくと、親方相当の者は太夫とされ、それ以外の子方は単なる大神楽師として扱われます。(参照:一般社団法人伊勢大神楽講社「令和五年一二月二三日 一般社団法人伊勢大神楽講社 名跡継承式のご報告」

https://www.kandayuyamamoto.jp/info/post-11194/

(2)北川央『神と旅する太夫さん 国指定重要無形民俗文化財「伊勢大神楽」』岩田書院、2008年、91頁。

 

「屋根裏通信」31号(成城寺小屋講座 2024)より転載