宝探しの冒険に出る主人公の手には必ず〝宝の地図〟が握られている。
叡山にゆきたい!
叡山のFWをしてほしい!
と数年前からリクエストしていたゼミ生の面々にとっては、間違いなくこの地図。
山本ひろ子先生の論考「〈物語〉のトポスと交通 日吉大社大宮縁起と説経『愛護の若』と河原巻物をつなぐもの」が収録されている、『物語・差別・天皇制』(赤坂憲雄、兵頭裕己、山本ひろ子編、五月社、1985)の最後のページに載っている。
いかにも手作り、手書きの、ちょっと〝すごみ〟すら伝わる。
愛護の歩いたルート。
説経『愛護の若』の最終局面はというと、
失意の愛護は山中をさまよい、血の遺書をしたためて霧降が滝に身を投げてしまう。
愛護が沈んだ滝のもとに、手白の猿や細工夫婦、山中の僧ら登場人物全てがあつまる。滝壺からは僧侶の祈禱によって、蛇神となった雲井の御前が愛護の死骸を被(かづ)いて出てきて。最後は叔父の阿闍梨をはじめ弟子たち、ほかつぎつぎに一〇八人が身を投げるという壮絶なもの。
愛護の歩いた道をを辿りたい、滝を見たい!
と、ひしひしと伝わってきていたが
ここでやむなく判断を下す。
今回は時間が足りないので叡山に登るのは諦めて、
ケーブル乗り場近くに、
滝から連なる川沿いに「衣かけ岩」があるのでそこまで行ってみます。
そして「唐崎の松」を訪ねてから「三井寺」へゆきましょう。
――いや、ちょっと皆を連れて
愛護が入水した滝を見るのにすこし及び腰になったのもある。
一方の唐崎は琴御館宇志麿が居住していたところで、その妻神を祀る。
ご祭神は女別当命(わけまさひめのみこと)。
こっちの方が今回の旅には相応しいでしょう、と。
結局「衣かけ岩」までの道もすこし時間がかかりそうだったので断念。
権現川沿いをあるいて滋賀院門跡へ出て、
荷物をピックアップして
JR比叡山坂本駅からタクシーで唐崎神社を目指す。
叡山山中をさまよい歩くのはまた次回に(つづく)。
○参考文献:山本ひろ子「〈物語〉のトポスと交通 日吉大社大宮縁起と説経『愛護の若』と河原巻物をつなぐもの」(赤坂憲雄、兵頭裕己、山本ひろ子編『物語・差別・天皇制』五月社、1985 所収)