幼少期、休日になると休みの日がもったいなくて早起きをしていました。

そんな貧乏性からか、旅先でも早起きをしてしまいます。

とくに知らない土地だと一層、歩いて土地を読もうとつとめます。

人の流れや、高低差、水の流れ、どこにどんな建物があって…と。

土地の空気を呼吸して、足の裏や皮膚を通して伝わってくる場所の感じを確かめます。

 

今回の旅でも例にもれず、朝は大津のこの場所を読もうとぐるぐる散歩。

無心で歩くと、以前に歩いた土地と感じが似ているな、とか。

普段は忘れている〝場所の記憶〟のストックから

類似情報が引き出されてきます。

 

 

今回は、なんといっても目の前に広がる圧倒的な〝琵琶湖〟がひとつの目印。

湖に向かって真っすぐに下ってゆく通りに目をつけました。

幸いに通りごとに小さな解説碑が建っています。

 

 

かつてこの辺りまで葭原が広がっていたとか。

旧東海道の意外な道幅の狭さに驚いたり。

沢山の店が建ち並んだ通りだったり。

 

今回の旅で得た収穫の一つは、

琵琶湖の湖上輸送に従事した人々の活気あふれるかつての様子が

活き活きと想像できたこと。

延暦寺(山門)と園城寺(寺門)の座主継承を巡る争いは

湖畔でも東浦(延暦寺)と西浦(園城寺)とに分かれて影響していたこと。

天下人達が琵琶湖の覇権を得ようと争ったことなど。

そんな人々の間で、愛護の物語や、祭礼に纏わる縁起が育まれたことなどがわかりました。

みるみる目の前の琵琶湖が〝可能性の宝庫〟に見えてきます。

そしてまたこの地が、逢坂の関でもあり、

〈東国〉との境界、そして

〝文学と伝承〟の発生源であることも知りました。

 

 これやこの 行くも帰るも 別れては

  知るも知らぬも 逢坂の関 (蝉丸)

 

大津駅前の地図。

今回は訪ねる時間がありませんでしたが、

地図左下には関蟬丸神社も見える。

 

山本ひろ子先生の論考のタイトル、「〈物語〉のトポスと交通」にまさしく合致する場所。先生の論考を読むのにふさわしい場所だろうと思いました。

ということで滞在二日目の朝は、駅前を湖まで散策し、今回は女神に縁のある社や、縁起で語られる人物が祭神として祀られている社を巡ろうと、「坂本の歴史を探る」の冊子から関連地図をコピーして日中のフィールドワークに備えました。(つづく)

 

○参考文献:山本ひろ子「〈物語〉のトポスと交通 日吉大社大宮縁起と説経『愛護の若』と河原巻物をつなぐもの」(赤坂憲雄、兵頭裕己、山本ひろ子編『物語・差別・天皇制』五月社、1985 所収)