小選挙区単記移譲式選挙制度(即時決選投票)の問題点(パラドックス)について考える。

指摘されるパラドックスは下記のものである。
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革新派、超保守、中間派の3候補がいて、この順番でランク付けが行われたとしよう。
即時決戦投票のルールにより、第3位の中間派候補は失格となり、
彼を1位に選んだ票は革新派か超保守の2人に再分配される。
中間派を選んだ有権者の多くは、超保守よりも革新派候補を好んでいたとすると、
当選するのはこの革新派候補だ。

さて、革新派候補が、自分の当選可能性を高めようと、
超保守候補の支持者を切り崩そうとしたとする。
そして、最初の投票結果が革新派、中間派、超保守となったとしよう。
今度は超保守候補が失格し、超保守候補支持者は革新派よりも、
中間派を好む(ありえる話だ)とすれば、決選投票では中間派が勝ってしまう。
おや?革新派候補は獲得票を増やしており、また、投票直前に考えを
変えて超保守でなく革新派に鞍替えした投票者の意に反し、
革新派候補は落選してしまうのだ。これこそが「即時決選投票」の持つ
「勝敗逆転パラドクス」だ。

選挙のパラドクス ウィリアム パウンドストーン (著), 篠儀直子 (翻訳) より
原文は、革新派はリベラル、中間派は穏健派となっていたが、分かりにくにので置き換えた
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これは机上では正しい。しかし、次の点で現実は異なる。

(1)通常、対局にある政党派閥の票だけを切り崩すことはできず、
中間派の票も切り崩される。そのため、上記の例では、ランク付けは
変わらないケースが多いと考えられる。

(2)革新派と中間派が同じ政策で、超保守だけが異なる政策部分を
指摘して切り崩しを行うと超保守だけの票が切り崩される可能性が
ある。しかし、この場合、超保守の票は中間派に流れる場合が多く
革新派の『自分の当選可能性を高める』というもくろみは失敗するので
革新派はこのような戦略は取らない。

(3)したがって、革新派候補が、自分の当選可能性を高めようとする
場合は中間派の支持者を切り崩すことである。なぜなら、
中間派のランクが最下位となるとともに、中間派の支持者で
好選順位2位に革新派候補者を記入する人が増え、革新派候補の
当選可能性が高まるからだ。

(4)A党、B党、C党の3候補者がおり、政策について下記のようになっていたとする。
  原子力発電:A党条件が整えば推進、B党徐々に廃止、C党即時廃止
  TPP:B党積極的に参加、C党条件を整えれば参加、A党反対
  消費税:C党増税、A党条件が整えれば増税、B党増税反対
つまり、3党が政策によって中間派が異なる場合を考える。
この場合、それぞれの政党支持者の好選順位2位指名者が特定の政党に
偏る可能性は小さくなる。したがって、パラドックスの前提である
(ありえる話だ)の可能性が低くなりパラドックスは起こり難くなる。

(5)日本の選挙では、3割くらいの有権者が投票日直前まで投票先を
決めておらず、この人達から支持を取り付けることが重要である。
つまり、対局にある政党派閥の票だけを切り離すのではなく、
投票先を決めていない人をターゲットにする戦略を行う。

以上のことから、即時決選投票のパラドックスが発生する可能性は低いと考える。
とのような選挙制度にもパラドックスは存在するので
パラドックス発生確率可能性とその選挙制度の効用などを検討し、
どの選挙制度が良いかを考えるべきである。