選挙制度の1つである
単記移譲式投票(Single transferable vote)」
の基本は、全候補者名が印刷された投票用紙に、有権者が好ましい順番を1から順に全候補者名に記入して投票する方式である。

 

 

主なメリットは下記の2つです。

(1)同じような意見の人が共倒れを気にせずに立候補できる。
 例えば、2006年10月17日の栗東市長選挙のように新幹線駅建設反対派が分裂し票を分けたため、駅建設賛成派の市長が当選した事態を防げる可能性がある。

[滋賀新幹線新駅問題に見る選挙制度]


また、議員に相応しくない世襲候補が落選する可能性が高まる。

 

(2)A党が獲得した票を上手く配分すれば2名当選できたのに1名が非常に多く票を集めたため1人しか当選できなかった事態を防げる。

 

 

しかし、この開票方法が判り難いようなので、簡単に、わかりやすく解説します。

 

 

---【定数1(選挙区の当選者が1人)の場合】---------------------------

 

定数1の場合、単記移譲式投票は、
 「得票数が最下位の候補者を落選決定者として候補者から除きながら、
  過半数の票を得る候補者が出るまで投票を繰り返す」

選挙と同じようになります。つまり、オリンピックの開催地を決める選挙と同じになります。

 

この方式では何回も投票する点が単記移譲式投票と違うと感じるでしょう。

 

しかし、信念をもって候補者を選んだ人は
 『一度決めたら最後まで(=その候補者が落選となるまで)変更しない』
はずだとの仮定を置きます。

 

この仮定が正しければ、単記移譲式投票は、何回も投票するのと同じ事になります。

 

これが、小選挙区単記移譲式投票、また、知事や市長などの地方自治体の長選挙に移譲式投票を適用した例です。

 

ただし、単記移譲式投票は、定数が複数の場合に使用する事が多い用語なので、定数1の場合は、次のように言われることが多いです。(呼び方が多すぎるのが難点です)
   - 即時決選投票(IRV) [Instant runoff voting] (決戦と書いている場合もある)
   - 優先順位記述投票
   - 優先順位付投票
   - 順位指定投票制
   - 選択投票制(the alternative vote)、
  - 小選挙区・絶対多数決制・優先順位付投票式、
  - Ranked Choice Voting  :ランク付けされた選択投票
  - Ranked Voting  :ランク投票
  - Preferential Voting  :優先(参照)投票
  - Preferential Ballot  :優先投票
  - AV(Alternative vote) :代替投票
 
私は「即時決選投票」が一番ピッタリな呼び方だと思います。

 

 

---【定数複数の場合】---------------------------------------------------
定数が2以上の場合は、当選者が集め過ぎた票も選好順位に従って移譲します。

 
 

簡単な解説
例えば、定数2に3名の立候補者がいて選好順位1番の票を集計すると

下記のようになったとします。
 a氏(A党) 434票
 b氏(A党) 276票
 r氏(R党) 290票  (有効投票数1,000票)

単純選挙(単記非移譲式)投票ではa氏とr氏が当選となります。
そして、a氏がもう少し票をb氏に譲れば2人当選できたのにとA党支持者は悔やむだろう。

 

 

さて、単記移譲式投票では、どうなるか説明しましょう。
定数2の場合、全体の33.3%より多い票をとれば必ず当選するので
  434票 - 334票 = 100票
が、a氏の集め過ぎた票となります。

選好順位1番がa氏だった434票の内、選好順位2番が

  a氏と同じ政党のb氏だった割合を70%

  a氏と別な政党のr氏だった割合を30% 

とします。この場合、a氏が集め過ぎた100票は上記割合で案分され

  b氏に70票移譲、b氏の得票に加算され 276票 + 70票 =346票

  r氏に30票移譲、 r氏の得票に加算され 290票 + 30票 =320票

となります。その結果、移譲後のb氏の得票はr氏を上回ります。
つまり、単記移譲式投票ではA党のa氏とb氏が当選となります。
 

以上、簡単に説明しました。

 

 

 

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以下、いやいや、この方式には問題あるじゃんというマニアックな方向けの話なので、読み飛ばして下さい。

 


---【問題1】-----------------------------------------------------------
定数2で、A党からa,b氏がP党からp、q氏が立候補している場合

 

・A党支持者は a,b氏のどっちらかに1番、もう一方に2番をつければ良いので単純です。

 

・A党とP党が1議席づつ獲得するのが好ましいと考える有権者は、
 第1優先順をa氏とした場合、
  a氏が落選の場合は、第2優先順はb氏
  a氏が当選の場合は、第2優先順はP党から選ぶはずである。
 しかし、単記移譲式投票ではこのような投票はできません。
そこで、A党とP党が1議席づつ獲得するのが好ましいと考える有権者の投票は、選挙前の状況分析により変更する事になります。
単記非移譲式でも状況分析により変更する事になりますが、考慮しないといけないケースはかなり複雑になると思います。

 

 


---【問題2】------------------------------------------------------------
立候補者が複数人いた場合、最下位がだれになるかによって
結果が変わることがあります。

[移譲式投票では当落の逆転もありうる]

 
 

2019/10/19追記  2019/11/4 ,2020/8/16 一部修正

 例えば、新幹線の駅建設に、推進派検討派反対派の3人が立候補した場合を考える。
 
【ケース1】 推進派が41%、検討派が30%、反対派が29%の票を獲得したとすると、反対派の得票は2番目に記載した候補へ移譲される。反対派に投票した方は2番目に検討派候補を記載するケースが多いだろうから、検討派が当選することになる。
 
 
【ケース2 推進派が41%、検討派が19%、反対派が40%の票を獲得したとすると、検討派の得票が2番目に記載した候補へ移譲される。検討派に投票した方が2番目に記載する候補者は推進派反対派に分かれるだろう。検討派を1番に書いた有権者の1/2より多い人が推進派を2番目に記載すると推進派が当選する。つまり、反対派にとっては一番悪いと考える推進派が当選となる可能性が高い。だから、反対派の候補者は自分に当選の可能性がないと見極めると、立候補を取りやめるなり、自分が最下位になるような奇怪な戦術を行うかもしれない。これが私の考えるパラドックスである。
 
 もし反対派の候補者が当選を諦め検討派に票を譲ると、【ケース1】となり検討派の候補者の当選は確実になる。しかし、反対派は少数意見だという選挙結果となり、新幹線の駅建設が進め易くなる。そのため、自分が最下位になるような奇怪な戦術は将来的には反対派にとって悪い戦術と言える。
 
 また、【ケース1】の状態であったのを反対派検討派の有権者を切り崩すと【ケース2】となる反対派努力の結果、推進派が当選することは、反対派にとって最悪である。これも、パラドックスと言える。しかし、【ケース2】で例えば検討派を1番に書いた有権者のちょうど半分が2番名に推進派を書いた場合、移譲後の選挙結果は、推進派50.5%反対派49.5%と非常に伯仲する。その結果、推進派は、強硬に推進できないと自覚し話し合いながら進めざるを得なくなる。つまり、反対派の努力が報われる
 
 以上のことから、私の考えるパラドックスは実際は発生しないと考える。
 
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どの選挙制度にも一長一短があります。
しかし、非移譲式選挙や連記記述式や比例代表選挙制度より、
単記移譲式投票は 良い制度だと私は考えます。

 

 

★知事・市町村長選挙制度について

 

現在の選挙制度では政党の共闘は避けられないが、単記移譲式選挙の方が絶対に良い

 

以上 私の解釈を説明しました。

 

 

【追伸】

その他、単記移譲式に関する問題点をまとめてみました。

単記移譲式の問題点

 

 

 

※単記移譲式投票(Single transferable vote)の別名 (2020/8/16 追記)

 ・ヘア=クラーク比例方式 (Hare-Clark Proportional method) 

 ・選択投票 (choice voting)

 ・選好投票 (preference voting)

 ・比例代表単記移譲式 

   (proportional representation through the single transferable vote (PR-STV) ) 

 

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※「優先順位付連記投票」と訳す事もあります。
しかし、「連記」という表記は「有権者が投票用紙に書く名前の数」ではなく、
「有権者が投じる票の数」を意味します。
単記移譲式は、有権者は1票しか有していないので「連記」と記述するのは
誤りだと思います。
(あむゆわさんへの質問とご回答を基にした私の解釈です)