テーブルの上に両手をそろえて置く。
その両手の甲に水がいっぱいに入ったコップを乗せる。
たったそれだけで、人間は『自由』を失うのだ・・・
今回は、そんな自由を奪われた男のすべらなそうな話。第29弾。
このブログですっかりお馴染みの我が中学剣道部で伝統的に行われている罰ゲームがあった。
その名も『エロエロ坊主』。
名前の滑稽さとは裏腹の非常に過酷な罰ゲームである。
その内容はとてもシンプル。
①ジャンケンで負けた者が、巾着状の剣道の防具入れに体を丸めて入り、首のところで口を結ばれる。
②手足の自由を奪われた『てるてる坊主』のような状態のまま運ばれ、女子が着替え中の更衣室に投げ込まれる。
というもの・・・
剣道の防具入れのサイズは、人が入るには奇跡的にぴったりで、生地が恐ろしく頑丈なため、一度入ると自力で脱出することは不可能なのだ。
まさに、すべての『自由』を奪われる恐怖の罰ゲームである。
夏休みが間近に迫っていたその日は、コウショウ先輩(仮名)という高校生の皮をかぶった悪魔が部活の稽古に参加していた。
道場内は終始ピリピリした雰囲気だったが、なんとかケガ人もなく稽古は終了した。
悪魔が帰ると、ストレスから解放された上級生が『エロエロ坊主』をやろうと言い出した。
下級生のオレたちは、しょうがなくジャンケンをした。
負けたのは、テツヤ(仮名)というオレのやんちゃな同級生。
最多の『エロエロ坊主』歴を持つ猛者だ。
手際良く防具入れに入るテツヤ。
顔だけだしたテツヤ坊主が完成した・・・
上級生の指示により、オレともうひとりがテツヤ坊主を運ぶ。
『あまり奥にほうり投げるなよ!』
いつになく警戒しているテツヤ。
オレたちは言われた通り女子更衣室のドアを開けると、テツヤを手前側にそっとほうり投げ、ドアを閉めた。
『キャーキャー』
いつもの悲鳴が聞こえる。
その時だった!
『どうした~?』
悪魔が戻ってきたのだ!!
怒気を帯びた悪魔の声を聞いた上級生とオレたちは、あまりの恐怖に荷物を抱えて一目散に外へ出た。
みんなの頭の中は、もはや、わが身の心配しかなかった。
外に出たオレたちは、怒ると手のつけられない悪魔から逃れるために、そのまま帰宅することを選択した。
『コウショウ先輩は毎日来る訳じゃないから、ほとぼりを冷まそう』
というのが、全員の共通意見だった・・・
翌朝。
オレは歯を磨きながら、重大な忘れ物に気がついた!
・・・テツヤ!!
(あまりの恐怖で完全に忘れていた・・・)
急いで支度を済ませ、速攻で道場に向かう。
(まぁ、誰か救出しているだろう・・・)
道中そんなことも考えていた。
道場について、すぐに女子更衣室のドアを開けた。
誰もいない・・・
(やっぱり!さすがにそうだよな・・・)
オレは安心しながら、なにげなく稽古場の方に目をやった。
・・・???
えっ???
稽古場の神棚下の床の間に見慣れたシルエット。
師範たちの防具らと一緒にテツヤが飾られていた・・・
猟奇殺人のような光景・・・
悪魔の所業だ・・・
急いで駆け寄るオレに、
涙の跡をつけたテツヤが擦れた声でいう・・・
『夏休みだったら・・・死んでた・・・』