先輩と後輩の間には『ルール』が存在することが多い。


まぁ、挨拶だったり、礼儀だったり、社会人として当然のモノがほとんどではあるが、中には理不尽なモノがあったりもする。


今回は、そんなすべらなそうな話。第28弾。






オレと後輩・F原の間には、くだらないルールが存在していた。




地元でイベントの仕事をしていたオレ達は、毎日のように市内各所を車で動き回る。


その際、運転がイマイチなF原は助手席に座り、先輩のオレが運転することが多かった。


一見、アンバランスな役割分担に見えるが、イベントのチラシやポスターなどをあちこちに配る場合、オレは車に乗ったままで良く、F原だけが動くというように意外にいいバランスで仕事をこなせていた。



そんなオレたちのルール・・・



1、F原が車に乗り込む時には必ず窓をノックし、一発ギャグをしなければならない。


2、面白くなければF原を残して車は発車し、次の信号まで走って追わなければならない。


3、合格がでるまで、永遠にそれが繰り返される。



例えば・・・


険しい顔で走ってくるF原。


せわしなく窓をノック。


窓が開いて一言。


『運転手さん!!前の車追って!』(刑事風)


『乗ってよし!』


みたいな感じである。



刑事もののパロディは比較的はまりやすいシチュエーションなので、F原は調子に乗ってかなり連発していた。


そのせいで、ネタは枯渇していき、走る距離は伸びていった。




その日は記録的な豪雪だった。


オレたちがショッピングセンターでの打ち合わせを終えて駐車場に戻ると、車はものすごい量の雪に覆われていた。


北国には、車専用の『雪かき棒』というものがある。


T字型をしているアルミ製の棒で、雪をかく先端には車体に傷をつけないようにゴムもついている優れモノだ。


オレは車の中から雪かき棒を取り出すと、ポイっとF原に投げた。


『え~オレひとりでやるんすか?先輩、今日は一発ギャグやめましょうよ。雪はんぱないんで・・・』


F原が言う。


『そうだな。今日はやめよう!その代わり、雪かき頼むな!!』


とオレ。


『任してください!!』


F原は張り切って雪かきを始める。


その様子を車の中で見ているオレに悪魔の誘惑・・・


(雪かきの途中で車を発車させてみるか・・・)


そう思うと同時に、オレはもうアクセルを踏んでいた。


車は呆然とするF原を駐車場に残し、勢いよく道路へ出て走り出した。



いつものように信号の手前で車を止めるオレ。


バックミラーには吹雪の中、雪かき棒を片手に必死に走るF原の姿が映っていた。


(さすがに、ちょっとやりすぎたか・・・)


やっとF原が追いつく・・・


窓を乱暴にノック!!


(怒ってるわな~)


遠慮がちに窓を開けるオレ。


雪まみれのF原が笑顔で一言・・・






























『先輩、雪かき棒忘れてます!!』






























『乗ってよし!』