いまのジャニーズファンにも、平本氏の名前はよく知られているだろう。現在、プロデューサーであり作家、投資家でもありといくつもの道で広く活躍をしており、その経験と確かな筆力から、ジャニーズ関連のネット記事をさまざまなニュースサイトに提供し、ファンの“知りたい”に応えてくれている貴重な存在である。

 この平本氏が、これまでに紹介してきた、フォーリーブスの北公次氏、ジャニーズの中谷良氏、ソロデビューした豊川誕氏ら、10代にしてジャニー氏の毒牙にかけられ、人生を狂わされた者たちと大きく違うところは、ジャニー氏に”最後の一線”を、とうとう許すことがなかったということだ。

 もちろん、ジャニー氏からの誘いは、あったという。

 著書の中の第二章「苦悩――デビューへの代償」内、「ホモとの遭遇」と見出しがつけられた一編で、事細かにその悪魔の行為がつづられている。

 ジャニー氏のホモ疑惑については、同僚のJr.たちから聞いていたものの、いまいちどういうことかを理解していなかったという平本氏だが、合宿所ではジャニー氏が一緒に風呂に入り、体をすみずみまで洗ってくれる上に、パンツまではかせてくれるのが当たり前、という奇妙さに気が付いてくる。

 夜中になると、並んで寝ているJr.のところにジャニー氏は滑り込み、その場所からは、「ごそごそ……」「ハァ~…」という謎の声が聞こえてくる。

 そして、ついに平本氏にも、その毒牙が向けられる。

合宿所に泊まったある夜、強烈な香水のにおいとともにジャニー氏に抱き寄せられてしまう。そこまでの経験は何度もあったというが、その日のジャニー氏はさらに”その先”を求めてきたという。

 例の如く腕枕をして足もからめてきた。この時は私は寝ておらず、私が寝ていないのをジャニーさんは知っていた。抱き締めながら、「ユー、もうすぐデビューだね」と発した言葉と一緒に少し荒い鼻息が頬を撫でる。
(中略)
「レッスンは大変だけど頑張って」「新しいグループにはユーがリーダーで頑張るんだよ」「来年にはもうユーは大スターだよ」とよだれが出るほど甘い夢のような話だった。これらをジャニーさんは小声で耳元でささやきながら手の平や腕のマッサージを施す。

 「もっと気持ちのいいことしてあげる」と言われた時は、心臓が爆発する思いだった。

 この”もっと気持ちいいこと”は、足の指を鳴らすことだったというが、こうしておいしい話とマッサージで、まだ性愛の意味も知らない少年の心を溶かしていくのが、ジャニー氏の手口のようだ。

 強くもんだり指を鳴らしたりとテクニシャンのジャニーさんは、いつの間にか体を撫で回すようになり脚を股に突っ込んできた。

「ワァー」と絶叫した。しかし心の叫びであった。周りに寝ている二人にこの状況を知られたくはなかったのだ。

 平本氏は、この窮地を、「トイレに行きたい作戦・我慢できないスペシャル」で切り抜ける。そして、トイレから戻ると、ジャニー氏は、平本氏の隣で寝ていた「忍者」の正木慎也のことを、可愛がっていたという。

 そして平本氏はその後、「本物のホモはここまでするのか、ということを知った」という、決定的なシーンを目撃することとなる。

 

四つん這いになった少年の後ろからジャニーさんは行った。細かいところは見えないが、少年の「痛い!」という声が耳にこだました。
(中略)
 彼はこの日をスタートに「儀式」のすべてを経験した。愛撫からキス、そしてアナル、フェラチオまでのされる方とする方。何カ月かすると、彼はグループメンバーに入り今でも活躍している。

 この行為をすればデビュー、そして拒否するならばいくら頑張ってもジュニアで終わる。そのことだけが頭の中に刻まれ渦巻いていた。

 前篇 光GENJIの木山将吾氏が2005年に出版『Smapへ~そしてすべてのジャニーズタレントへ

 平本氏は、その後も、何度も抱きしめられての甘い囁きは受けたというが、決して一線を超えることはなかったという。そんな平本氏に、デビューのチャンスはなかなか訪れず、Jr.のリーダー格として活躍しながら、結局、デビューを諦めて、18歳のときにジャニーズを去ることとなる。

 

 

 その後、いくつもの分野で成功を収めている平本氏だが、それでも、あのまま続きに応じていたら、今頃スターだったかもしれないとの思いがよぎることがあるようだ。

 自分では「悪魔の囁きに乗らなかった」と良い方に納得しておかないとジャニーズ事務所にいた経験が悪い思い出として付きまとってくる。

 こうして、強い気持ちで過去に決着をつけているというが、それほどに、スターの浴びるスポットライトはまぶしく、ジャニー氏の「来年にはユーも大スターだね」という囁きはどこまでも甘く、10代の少年たちを惑わせるのだろう。

 86歳になるジャニー氏が、現在も同じようなことを繰り返しているどうか知るよしもないが、King&Princeの成功も、こうした歴史の積み重ねの上にあるということを、メンバー、そしてジャニーズタレントのファンも知るべきではなかろうか。
(渡邊孝浩)