…「お判りいただけましたか?つまりわれわれ『ダーウィン』社は、「環境への適応」という観点に照らして、正しい社会というものはいかにあるべきか?少しでも万人の幸福という理想に向けて、いかにして社会を正しくしていくべきか?、そういうコンセプトと目標を実践すべく、多種多様に活動していて、…」

 

 CEO兼広告担当の兜太氏は、熱心にしゃべっていた。

 

 設立者は、彼、兜太氏で、設立の理念はつまり「万人の幸福、正しい社会の実現。いろいろな問題を「環境への適応」という観点から正しく解決していく…そのためのシンクタンク、アドバイザー、トータルデザイナー、それがわれわれ『ダーウィン』社である。」というもので、貪欲にいろいろな分野に手を伸ばして、目覚ましい業績を上げていて、急激に成長しているのだそうだ。

 

「えーと、では具体的にはどういう企業活動を行ってらっしゃるのですか?」あかりは訊ねた。話が漠然としすぎていて、イメージすら曖昧だった。

 

「一言では申し上げにくいですね…現在は社員が25人で、年商は30億円です。クラウドファンディングで資本金を募ったので、実質丸儲けです。シンクタンク的な活動が主ですので、原材料費とかは全くかからない。まあ濡れ手で粟という、IT企業とかによくあるパターンでしょうね。

 ただ、我々の場合は、設立理念とかはむしろNGOとかNPOに近い、理想主義的な企業なので、… …」

 

 あかりも興味を惹かれて、『ダーウィン』社なるものがどういう活動を行っているのか問いただそうと質問を繰り返したが、結局この進化論の鼻祖の名前を冠した謎の企業の実態は空漠としたままで、むしろ杳として知れない、といった方が正しかった。

 

 だいたいが社員の数とか年商の数字も本当のことを言っているのかどうか、そこもはっきりしていない。

 

 ただ、「我々は来るべき大阪万博にパビリオンを出展します。そのための準備に今は全力を注いでいます。ですから、ダーウィン社の全貌を知りたければぜひ万博にいらしてください」ということだった。

 

 そこが唯一、全体として話が曖昧だった兜太氏の確言したことだった。

 

 あかりは、インタビューを、「いよいよ深まる謎…”大阪万博で神秘のベールを剝ぐ”ー『ダーウィン』社CEO・兜太徹氏」

 という記事にまとめて、「ニュース風見鶏」の電子版に挙げた。

 

 万博の開幕が待たれた…万博自体には従来興味がなかったあかりも、いったいなんでダーウィン?という最初の疑問と興味が知的な好奇心として持続したままに、それがいよいよ解ける”場”としての万博へと、いやがうえにも期待が高まるのだった。

 

 兜太氏はこういう効果を狙って、返答や説明を曖昧に口を濁して、不可知な謎として残そうとしたのかもしれなかった…

 

 (兜太さん、なかなかやりますね!あなたはいったい何者?…)

 

 あかりは、兜太氏の蒼みがかった、エキゾチックな趣のある、キラキラした眼差しを思い浮かべていた…

 

 

<続く>