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掌編小説・『観光バス』
 
 こんにちわ。お久しぶりです。理寺詩高校二年の、文芸部員、紫文乃です。
 私の文芸部生活も四月で二年目に入りました。
 先輩の卒業や新しい後輩の入部や、いろいろな離合集散、出会いや別れを経験して、自分のアイデンティティ、人格の涵養に裨益する貴重な体験、かけがえのない思い出をたくさん作れた、そういう弥生三月が、あわただしく過ぎていきました。
 弥生というのは「いやよい」が訛った言葉らしくて、「草木がいよいよ生い茂るさま」を言うそうです。私はこの季節、早春の生まれで、誕生日はかの吉永小百合さんと同じです。
 十二か月の古名は全部暗記していて、いわれもしっています。今は二十四節気とその意味を調べて大脳の海馬に記銘するという作業を、自主的に続けています。この「海馬」というのは英語で言うとsea horse で、つまりタツノオトシゴのことらしい。側頭葉にある記憶をつかさどる中枢の形状がちょうどタツノオトシゴみたいな形だかららしいです。最近面白いなと思うのは、こういう熟語とかがポエティックな比喩表現になっている日本語、例えば「蔓延」とか「  」とか「軋轢」、「一蓮托生」とかです。表向きの意味は具体的な事物ですが、それが比喩的に別の意味になっていますね?
 到底英語とかに翻訳しようのない、でもすごくおしゃれで素敵な言葉…
 日本語でしか表しようのない、こういう日本語を大切にしたいな、と心から思います。
 
 この間はクラスで、親睦会を兼ねた、バスの小旅行が催され、みんなで菜の花だのチューリップだのが沢山咲き誇っている郊外のお花畑近辺へ観光旅行に出かけました。
 観光バスにはつきものの、素敵に可愛くて初々しい感じのバスガイドさんがたどたどしい口調で名所の見どころとかを懇切丁寧にレクチャーしてくれて、すごく愉快な春の一日でした。
 バスガイドさんも一夜漬けで勉強してきたのか、道中でいろいろな文学やことわざなどの故事来歴を説明してくれるのですが、頓珍漢な?間違い、誤謬だらけで、私はずっと下を向いてクスクス笑いをこらえていました。みんなは神妙な顔でうなずいたりしていましたが…
 
 「…このあたりは「武蔵野」という地名で、いろいろな有名な文学作品の舞台になったりしています。坪内逍遥にはそのものずばりの「武蔵野」という作品があって、自然主義文学の代表的な作品とされています。逍遥には「浮雲」という言文一致体の嚆矢と言われている作品もありますね?
 「布団」を書いた国木田独歩は、「田舎教師」とかの赤裸々な告白小説で有名です。
 同時代の尾崎紅葉は「伊豆の踊子」で、一高生と芸者の恋と離別を描いてノーベル文学賞を受賞しました。
 あ、菜の花畑ですね!有名な芭蕉の俳句に「菜の花や月は東に日は西に」というのがあって、芭蕉は画家だったのでそういう雄大な風景から詩想を得たと言われています。
 「菜の花の沖」という吉川英二の歴史小説は維新の元勲の人物群像を描いた傑作です。
 「春のうららの隅田川~♪」とか「春高楼の花の宴~♪」は山田耕作の代表作で、スタンダードな愛唱歌になってますね?「赤とんぼ」は滝廉太郎で、滝はこういう童謡の作曲を得意としました。
… …
 
 よくこれだけ出鱈目を並べられるものだと思えるほど、ことごとく間違いだらけで、なにか文学だとかそういうものに反発を覚えていて、アイロニカルなジョーク?のつもりで、わざと嘘八百を言っているのかと思えるほどでした。
 
 一日のバス旅行でいくつか俳句を作ろう、というのが文芸部の宿題だったので、俳句は全くの初心者ですが、見よう見まねで詠んでみました…
 
 菜の花を目に貯える家路(イエロー)哉
 
 啓蟄や春泥春耕稍蠢動
 
 早蕨を萌えさせるなり四季の巫女   文乃
 
 
<了>