<BR>真夏のある闇夜、一人の男が森の中で夢も見ない眠りからさめると、地面から頭をもたげた。そし真夏のある闇夜、一人の男が森の中で夢も見ない眠りからさめると、地面から頭をもたげた。そして、しばし闇を見つめて、「キャサリン・ラルー」といった。それっきり何もいわなかった。それだけのことをなぜ口にしたのか、男にも理由はわからなかった。その男は、ハルピン・フレーザーといった。以前はセント・ヘリーナに住んでいたのだが、いまはどこに住んでいるのか定かでない。なぜなら、彼は死んでいるからだ。彼の下には枯葉と湿った地面しかなく、彼の上には葉の落ちた木の枝と、ぽっかりとそこから大地がぬけ落ちた空しかない森の中で常に眠りを取る者には、長命を望むことはできない。フレーザーはすでに三十二という年に達していたのである。世の中には、この年齢を大変な老年と見るものが何百万人もいる。中でもとりわけもっとも善良な者たちがそうだ。それは子供たちである。人生の航海を、そのいで立つ港から眺める者たちには、相当な距離を航海した船が、もうすでに遠いかなたの岸のすぐ近くまできていると見えるものなのだ。しかしながら、ハルピン・フレーザーが野ざらしになって死にいたったということは定かでない。