孔雀の夜 | 七色遠景

孔雀の夜


光も音も時間もない闇の中

細い銀色のリップスティックを天辺まで捻り

桜色に唇を染めて

テーブルに一つだけ置かれた

遠い月みたいに光るライチを剥いて齧る

薄紅色のサテンのドレスで横たわり

ベッドに溢れる水を掬えば

白い指先に沁みる冷たさに

あの夜の記憶が蘇る

あなたが捨てたふたりの夜が

鮮やかな孔雀の羽根になって

スローモーションで

闇の宙から舞い降りる

手を広げるわたしに降り注ぐ

青と緑の天然色の

グラデーションで

暗闇に輝きながら舞い踊る


孔雀の羽根はそれでも一つも拾えず

この胸に受け止められないまま

光のない水面に 

浮かんでは流されてゆく

劣情の金魚が一匹

紅の花弁の尾を振って

ベッドの傍をしきりに泳ぎ回り

口を何度も開けているから

水に浮かんで色褪せた

孔雀の羽根を食べさせる

記憶の水に浸されたまま

ベッドが沈む夜が訪れるまで

わたしはここで横たわり

あなたの捨てた夜たちを

こうして拾い集めては

今宵も孔雀の夢を見る






“日常妄想絵本”のKyokoさま
朱夏さんの言葉たち。 という絵を描いてくださいました。

その絵からイメージして、更に詩を書かせていただきました。
イメージのイメージ、ですね。