東京で待ってて | 七色遠景

東京で待ってて



カラフルな豆電球の果実たちは電池切れ


終電は大崎止まり


東京の街はもう眠る頃


総天然色の夜もエンドロール

フューシャピンクのリップは


始発前の朝陽を浴びた新宿高層ビル

このパフューム一吹きすれば


あの春の香り

新緑の代々木公園 飛沫光る噴水の前


あなたと笑って

ひっくり返りそうになった


新宿東口ではあなたを探せない

八重洲口はいつも冷たい


銀座のサブウェイは落ち着かない

青山は出口がない


池袋なんて問題外

渋谷のハチ公口前の


階段を下りるところで

待っていてよ


あなたの知らない街で

あなたの知らない白いブーツを買ったから


春にまだ間に合うように

履いていくわ


あなたの知らない街で

あなたの知らない白いブラウスを買ったけど


あなたの知らない誰かに貝のボタンを触られたから

やめておくわ

あの時ふざけて


手相を見てあげると

あなたの手を


触ったのはわたし

その手を握り返したのはあなた


深夜のファミレスで

白色電灯が賑やかなメニューを照らす


冴えない誘惑

それがふたりにはお似合い


終点は大崎止まり

たまには気の効く山手線

東京はここよりずっと

アンテナをみんなが立てているから


お喋りな人たちの洪水から

あなたをすぐには見つけられない


だから 

渋谷のハチ公口前の


階段を下りるところで

待っていてよ


すぐに行くから

着信音もあなたが好きな曲に戻して

新幹線に乗るわ


あなたの知らない誰かなんて


わたしも知らなかったように

会いに行くわ