赤頭巾ちゃん気をつけて | 七色遠景

赤頭巾ちゃん気をつけて


生意気なあの子と喧嘩した後
ちょっと気まずい沈黙が訪れて、一人でシャワーを浴びて
赤い(正確にはピンクの)バスタオルを頭に乗せて髪を乾かすわたしに
「赤頭巾ちゃんだ」
と、無邪気に笑って彼は言った。
まだ大学生だった彼とはよく口論になった。
「モラトリアムだね」
「うんそうモラトリアム」
また反論するかと思ったら、さらりと言った。
モラトリアムという言葉があるおかげで、彼は心に抱えたものに名前が付いて、
すっきりしているようだった。
それでもわたしはすっきりせずに、別れてしまったのだけど。
「年上って感じがしない。もっと包容力があってもいい」
女性に包容力を求めるのが、今時の子なんだなあと思う。
物分かりのいい年上の女を演じるのには無理がある。
彼から見れば、わたしの年齢はもう迷ったりせず、
人生に降りかかるさまざまな事柄を達観しなければならないらしい。
"大人の女"より"モラトリアムな少年"のほうが得な役だ。
替わってほしいくらい。
モラトリアムという言葉が許される年齢がある。
わたしの抱えたものにどんな言葉が当てはまるのかと思うけど、
下手にこれっていう言葉がないほうが、面白いかもしれない。

それからバスタオルを被った自分の姿を不意に鏡で見る度に、何となく彼のことを思い出すけれど、
携帯メールだけで別れ、胸が痛むような感傷がないのは、
今時のドライな恋に、わたしのほうが巻き込まれてしまった気がする。
少し怖い。


サリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」から、こういう青春小説にはまった時期がありました。わたしの学生時代。



著者: 庄司 薫
タイトル: 赤頭巾ちゃん気をつけて