故郷 | 七色遠景

故郷


わたしは忘却した


最後に父に告げた言葉を

商店街のパン屋の娘の名前も

置き忘れたLPのメロディも

小さな家の形も

その屋根瓦の色も

柱に誰かがナイフで抉った傷跡も

フィラリアで死んだ犬の空っぽの小屋も

そのだらりと垂れた鉄の鎖も

その鎖の先の

弧を描く傷んだ首輪に刻まれた名前も

意識して忘却した


海辺の防砂林の松は

いつも過去の色をしていた

錆びた針の群れを擦らせ 

乾ききった音をたて揺れていた