原川家の長槍
昨年の12月29日に、西八王子のドコモへと歩いていた。前日もドコモの店に向かって、歩いていたのです。桑志高校のバス停で、時刻表をのぞき込み歩き出して、塀のあるお宅の2階を見上げながら「立派な造りのお宅だなぁ」と想いながら歩き始めたのです。ドコモの店は、年末で混雑して1時間待ちのうえに、案内の女の子が、「老人が、あれこれ聴くので」と思ったのだろう?何処かに行ってしまった。老人は、待てないのです。帰ろうと決めて西八王子ショッピングセンターへ歩き出したのです。次の日もドコモへ行かないと用事が終わらないのです、あれこれとしてるうちにバスに乗り遅れてしまいました。ムーブで西八王子ショッピングセンターに車を停めて、歩きなが昨日見上げたお宅の前にさしかかりました。脇の門からめがねを掛けた女の方が、舗道に出ておられました。思わず「あの2階はご立派ですね」と指さしました?其処声を聴かれたのか、ご主人と想われる方が出て来られました。「中をご覧になりますか?私は、一瞬面食らいながら「宜しいのですか?」と言うと、ご主人が、「門を開けますから」と言って中に招き入れてくれました。塀に囲まれた中は、静けさで満ちていました。玄関へ打ち水がしてあり、掃除が行き届いています。「掃除が行き届いていることが、基本ですね」と私が問いかけるように言うと「中をご覧になりますか?もっと奇麗に掃除してありますよ」とまた、お返事が返って来ました。「中に回って開けますからどうぞ」暫くして、玄関の障子扉を、開けて頂きました。「宜しいのですか?行きずりの私が中に入って」何度も頭を下げながら、家の中に入らせて頂きました。下の部屋は、すべて畳のようです。左の部屋に床の間、備え付けの神棚、仏壇があります。優しさと威厳のある大きな写真が飾られていました。近衛兵となり連隊長を務められ、市議会の要職もされた功績のあるご主人のお父さんでした。「長槍は此処にあります」と教えて頂きました。ご先祖は、千人同心で甲斐の国から八王子城下へ来られた、最初の250人との事だそうです。「樫の一本造りですから、刀を跳ね返してしまいます」「長さは、どの位ですか?」「二間(五メートル半)ですね、槍は短いです」「錆びています?」後で失礼な質問だと気になったのですが、実践で使われていれば、錆が出易いと安易に思ったのです。刀と違い手入れはどの用にするのだろうかとも、思ったからです。ご主人は、「錆びていませんよ」と答えられました。紅茶を頂きながら、ドコモの予約時間が気になりました。でも、貴重な話を伺うのが最優先です。お年は84歳だそうです、「お元気とお喜びが、お顔に溢れて居られますね!」シミが一つも無いお顔で、ご主人は座っておられました。帰り際に、傷跡の遺る敷台の写真を撮らせて頂きました。「大工さんが、この傷跡は、このまま大事に残した方が佳いですね」と笑顔で言われました。何度も丁寧に頭を下げてお宅を後にしました。原川家については、新しく編纂された八王子市史の民俗編の「葬儀」に詳細が載っています。10俵2人扶持のお家だそうです。後で思出しましたが、ご主人に民俗編を見せて頂いた、その中の墓所の写真に記憶があるようなのです。今日のご縁は若しかして、あの時お墓を拝見した時の事だろうか?其れとも、千人同心の研究家で故野口正久先生のお引きなので有ろうかなぁ?ドコモの店の予約時間には、間に合いました。