男
10円銅貨を切符販売機に入れてみたら
切符が出ないで電車が走り出した
駅長のいない駅で駅員に聞いたら
「汽車は来ない貨車に乗れば」と言うのだ
貨車に乗ったら枕木のない線路を走っている
運転手も車掌もいない荷台で
牛のように黙っていたら
俺は背中に牛と焼印の付いている男になった
貨車は西に走ってゆく
夜から昼へ昼から夜へ後ろ向きに
途中に駅はない
知らないところに行くんだと思っていたら
原野に出た
何故 誰にも逢わないんだと思っていたら
牛が片足を上げた
その眼が仲間だと言っている
俺は牛だったんだろうなと思って
辺りを見回したら
駅も貨車も原野も消失して
俺は青草をはんでいる牛だった