地下鉄
古ぼけた都会の地下を
鋼鉄製の電車が
垂直に走っていた
座席には二人の女が
足を投げ出して
唇を開き 片手に
切符を 握っていた
「哲学者の考え方にはついてゆけないわ」
ひとりの女が言うと
もうひとりの女が
着物を一枚脱いだ
「車掌も運転手もいない 電車に乗るなんて 妙ね」と女が言う
「あなた お面を外したら 化粧が台無しよ」と答える
暗闇の中に 駅は見えない
蛍光灯と青いコンタクトレンズの女の眼が光る
「トンネルの中を走っているのね」
「きっとそうね」
ガタガタ ドンドン ゴトンゴトン
「線路も見えないわね」
「あなた どこから乗ったの」
「駅名は忘れたわ」
「あたし 誰かに 犯されたいわ」
誰も聞いていない
二人の会話
引込線
もう めったに貨車の通らない
基地への 引込線の
レールの上を
逆光を浴びて
女が歩いている
遠くて私には
紺の制服が黒く見える
ロングスカートが
力なく垂れ下っている
その中から 女が匂ってくる
沈黙した 大地が
レールよりも長く 横たわる
朝の輝きも 太陽の光も
圧殺された 生物のように
私の細い眼には見えて
まるで他人事です