ベランダ越しに
母の手植えの
琵琶の木が
風に揺れている
冬は黒色の緑の季節
自転車置き場の陰で
夏が蹲っている
昼寝をしている
空は高さを増し
陽は低く僕をめぐる
いつもと違わない時刻が
僕を取り囲んで
娘がプラスチックのマイクで
高らかに歌う
男
いつからそうなってしまったのか
僕は42歳の出社拒否の男
六年前の七夕の日に
僕の心はプッンと切れた
それからの毎日は
転職の繰り返しで
満足に働いてない
妻は怒り呆れ果て
娘だけが
元気に歌っている
風
風が止まった
地表が冷える
雲が湧いた
時が流れゆく
往くあてのない
人生に決別して
男が歩いてゆく
その男は
僕ではないよ