良いとは聞いていた。すこぶる良いとは聞いていた。特にコーヒー好きであらば、試すべき、とそこでバイトをしていた友人から勧められてもいた。
しかし、ワタシはチキンであったため、その冒険に手を出さず、いや、出せずにいた。
駐妻がアメリカへ来てすぐに直面する避けて通れない問題。緊張し戸惑い、なんか自分が試されてるとも感じる場所である、店のレジでの英語対決。
それをアメリカ生活6年、ある程度制すと、今度はランクを上げた新しい試合を辞退し始めるきらいがあるのだ。
レジとは、自分の上達した英語を感じる所でもあり、かつ、まだわからんことあんのか~とふいの返り討ちに合う場所でもあるため、ある程度不自由なく通過できるようになると、返り討ち対策として、「いつもの」ことしかしなくなるという。
ワタシが試合を延期し続けていたものとは、ずばり、
スターバックスでのクローバーのオーダー
であった。
現在日本では66店舗展開している、クローバー。
独自の「バキュームプレス」という製法で抽出し、香りを一切逃さない絶妙なコーヒーを作り上げる、と言われているクローバーだ。
日本なら、それ用のメニューなんかも置かれているのだろうが、この田舎の小さなスタバ。ポンとマシーンがあるだけでどうオーダーしていいモンかようわからんのだ。
しかし、あの日は違った。スタバに隣接するピラティスで体を鍛えた後、急にやる気が出てもうたのである。なんか知らんが、あふれ出る冒険心。平常心の自分からしたら、こと迷惑である。結果、何の下調べもなしにカウンターへ飛び込んだのである。
「クローバーのコーヒーをいただきたい」そうカウンターで言うと、
「じゃ、どの種類にする?」
と矢が1本刺さり出血。
「豆のこと?」
と矢を抜きながら質問すると
「そう」
と。何か豆の種類が書かれたものを見せるわけでなく待つにいちゃん。抜けた矢の穴からぴゅーっと血が飛び出す。
「クローバー初めてオーダーすんねん。なんか、こうみんながようオーダーするおすすめでお願いしたいねんけど」
というと、
「ふ~ん」
とアゴに手をやり、何やらレジに打ち込むおにいさん。
「サイズは?」
と聞かれ「トール」と答え、出血が止まった。
レジの液晶部分に「シアトルの本店ロースト」と出たのを確認し、支払いが終了。エキシビジョンマッチに参加した、そんな手ごたえであった。
クローバーの前へ行って観察していると
クローバー横のマシーンで豆を挽き、クローバーのてっぺんの穴のところに挽いた粉を入れた。
お湯が出てきて、ミニ泡だて器で混ぜ混ぜ。
すると・・・
ゆっくりと確実に
コーヒーの粉がせり上がってくる。
歌舞伎やん
なんというか、観客の目を引き付ける変幻自在の劇空間、とでも言おうか。
そしてそのせりが下がり始めたかとおもうと
あっという間にコーヒーが抽出されたのである。
一口いただくと、
アキラならぬ、カオリ100%
しかも苦み・えぐみまったくないのだ。
挽いた豆の量が自宅のエスプレッソマシーンが挽く分量より多かったので、心配していたのだが、ちょうどの塩梅であった。
冒険心に感謝。
今度は、ハワイの豆はあるかい?なんてシャレた質問を用意してカウンターへ行こうやないかい。
経験は自信につながる。
わかっちゃいるケド、歳を重ねるにつれチキン度は増す。増し過ぎて、もはや養鶏所。
それでも飛び込むと案外あっさりと進むことの方が多い。とはいえ怯んでまうこともある。それが交互にやってきてもエエじゃねぇか、と口の中でシアトルを感じながら、一人チルし、次の試合に備えたのでありました。
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