松田尚樹の作業部屋

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定年フリーター爺さんの日々を綴ります

古典本格推理系の去年のわたしのテーマは「短編を読もう」だった。クイーン、クリスティ、クロフツときて、カーを読むのを忘れていた。で、ネットで「カー短編全集」を発見し、まずは当然第1巻だと思いきや、どうも第2巻収載の「妖魔の森の家 / The House in Goblin Wood」(1947)がホマレ高いらしい。それに流されて第2巻を手に取った。

 

 

1943~48年に発表された5つの作品が収められている。表題作でもある「妖魔の森の家」は、密室、不可能犯罪に加えて怪奇趣味、サスペンス、ちょっとした倒叙が、過去の事件との合わせ技という重層的な構成で組まれていて、ストーリーとパズルと伏線が40ページ程度にぎっしりと詰め込まれている。1行1行、油断して読んではならない。それでいて、単なる謎解きクイズに終わらず、人物もしっかり造形されていて面白い物語に仕上がっているのはさすが。エラーリー・クイーンが絶賛しただけのことはありますね~。長さがこれ以上でも、これ以下でも、このバランスは生まれなかったんだろうな、と脱帽。

 

https://www.abebooks.co.uk/magazines-periodicals/House-Goblin-Wood-First-Printing-Strand/32340139711/bd

 

それに続く2つの短編は、密室系、不思議殺人系で、表題作でカーの世界に適応した脳内思考経路が出来上がっているので、なるほど、そういうことですよねと素直に楽しめる。その次は毛色が変わっていて、素敵なお色気系女性記者が現れて捜査を撹乱しつつ、真相に連れて行ってくれる。トリック的には突拍子もないかもしれないけど、この作品は記憶に残りそうだな。

 

で、最後が堂々160ページの中編、「第三の銃弾 / The Third Bullet」(1947)だ。この長さでどう構成されるのかと興味津々だったが、殺人の発覚の後、新たな事実、新たな物証、新たな証言が次から次へと提示され、最初からずっと息つくヒマもない。そのうち第二の殺人まで起こってしまってギブアップである。そして明らかになった殺人プロットは実に複雑だが、読者に隠された情報はないので、そんなもんわかるか!と言いつつも、いやもう参りましたの世界だった。それでいて人物もユーモアをもって描かれていて、作品に血を通わせていた。これまたバランスよくキリッと締まった160ページでした。

 

 

お馴染みのH.M卿とフェル博士は5作のうち2作で登場。さすがに太っちょのこの二人ほどのキャラは立っていないが、残り3作もそれぞれ別の警察幹部が捜査し推理し犯人を暴く。最後の作品で指揮を取った長身痩躯のマーキス副総監が、中間管理職のペイジ警部と仕事の帰りにビールのおかわりを重ねながら事件を語っていくシーンは、刑事ドラマの屋台のおでん屋みたいで、なかなか良かったな。

 

中島河太郎さんの解説も懐かしいし、勉強になる。1956年に日本版のエラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン(EQMM)の日本版創刊号の巻頭を飾ったのが、この「妖魔の森の家」で、訳者は江戸川乱歩さんだという。それにしてもカーさんはミステリ上手だな。それを深く認識した短編集でした。次は長編に行くか短編で攻めるか迷ってしまうな。