松田尚樹の作業部屋

松田尚樹の作業部屋

定年フリーター爺さんの日々を綴ります

 

3月中旬の鹿児島は、陽射しは暖かいがまだ風は肌寒くて汗をかくこともなく、ちょうどいい季節だった。西郷どんも気持ちよさそうである。天文館から市電で鹿児島大学郡元キャンパスに向かった。

 

 

広い郡元キャンパスの農場を横切り、農学部の一角にあるのが先端科学研究推進センターの建物で、低温実験・アイソトープ部門と遺伝子実験施設が同居している。

 

 

裏に回るとこの白い建物が放射線管理区域で、1976年に生まれたときは農学部RI施設。奥の茶色い建物が2000年に建てられた遺伝子実験施設および共用部分ということになるが、その左手前の空き地は、1998年に省令施設として措置されたアイソトープ総合センターの建屋を新築合体する計画の名残りだとか。

 

 

レイアウトはこの通り。黄色い部分が放射線管理区域だ。管理室をRIと遺伝子で共用しているのは、全国的にも珍しいだろう。

 

 

3階に上がると、専任教員室で尾上昌平さんがお待ちだった。郡元地区共同利用RI実験施設(農学部RI施設を母体として1976年学内措置)の技術職員として2002年に入職し、放射線取扱主任者、博士(理学)など資格と実績と経験を積んで昨年より教員(講師)になられた。組織的には、2015年に郡元地区共同利用施設はアイソトープ総合センターと合体して全学の管理も任されることとなり、その後の改編を経て、現在は先端科学研究推進センターの低温実験・アイソトープ部門として機能している。尾上さんはこの部門長を務め、昨年赴任された技術職員の布村さんと事務補佐員合わせて3人のチームを率いる。今や約25年のキャリアを持つ、鹿児島大の放射線管理の顔である。

 

 

遺伝子実験施設と共用の管理室。両施設の職員が仲良く業務にあたっている。

 

 

もちろん集中監視装置や排水処理リモート装置もこの部屋にある。

 

 

左の窓の先には汚染検査室が見えるそうだが、モニターのカメラが管理室の室内灯オンオフに反応して発報するため、やむなく遮ったとのこと。

 

 

掌紋照合で管理区域へ。

 

 

利用者は、汚染検査室の操作盤で自分の使う部屋の空調をオンにする仕組み。

 

 

1階廊下。さすがに年季を感じるがキレイに維持管理されている。

 

 

尾上さんの運営方針は、物性を調べる実験や、極低温、高温、強磁場など特殊環境下での実験を呼び込むこと。そのための機器の整備や、利用者のスタートアップ支援、さらに工業技術センターとの共同セミナー開催等の外部とのコネクション作りには努力を惜しまず、またそれがこの施設の強みでもある。これは磁気特性測定に使われる振動試料型磁力計。現在は-1.8~1.8T(1.8Tは地磁気の36,000倍)の磁場における室温磁化の測定を行うが、この3月末には温度可変型(液体窒素温度~900℃)にグレードアップする予定。

 

 

こちらはX線回折装置(室温~500℃)。ガラスバッジをホルダーに入れて機器表面線量測定。これは山口大の坂口さんのアイデアをいただいたという。

 

 

ゲルマニウム半導体検出器。原子力防災を念頭に置いた環境放射能測定機能は、アイソトープ総合センターの専任准教授を務めておられた福徳先生が整備されてきたが、今も厚労省の事業を受託して広島、長崎の被爆地域の土壌放射能測定のため連日稼働中である。

 

 

2階に上がるとゲルマニウム検出器の真空引きが進行中。この作業を自前でできる施設も少ないのではないか。

 

 

固体物理がご専門で、最近はレアアースリサイクルの研究を進めている尾上さん自作の気相-固相反応熱処理装置。レアアース磁石を水素、窒素、酸素雰囲気中で合成・分解できる。この反応を最大磁場8Tの環境で行い、磁場がアシストすることによって得られる新素材の開発や、新たな分解プロセスの探索中。

 

 

Fe-57メスバウア分光測定装置。大学連携研究設備ネットワークにも登録しており、学外からの利用実績(受託測定)もある。

また、これらの機器を使った学生実験(理学部3年)も担当しているそうだ。

 

 

ウエットな研究手法にも対応できる実験室も、もちろんある。

 

 

測定室。施設職員が自前で行う作業環境測定にも活用されていた。

 

 

施設拡張と貯留槽増設にも対応できるよう、なんとも広い地下の排水施設。前置槽、貯留槽3、希釈層、の構成。水モニタは使用せず、希釈層から手動で採取し、品質管理された液体シンチレーションカウンター等の汎用測定器でモニタリングに供しているそうだ。

 

他に管理区域内には防護措置区分2の密封線源(Cs-137、Co-60)が、それぞれガンマ線照射装置の中に組み込まれている。また、低温環境のための液体窒素製造装置も保有し、これはフル稼働で郡元キャンパス内に供給されている。それがゆえに、尾上さん自ら高圧ガス製造保安責任者の有資格者である。

 

教育訓練は、コロナ禍以降全てオンデマンドのeラーニングが基本で、新規教育は2.5時間、再教育は立入検査報告や業務改善報告なども交えてトピックスを30分程度。学内のオンライン教育システム上での開講でアクセス記録は残るので、明らかにアクセス時間が短い受講者がいる場合には、再受講を指示するということだ。

 

また、学外の放射線教育は福徳先生の時代から極めて積極的に行われていたが、そのスピリッツはもちろん健在で、昨年8月には夏休み体験学習「ひらめき⭐︎ときめきサイエンス:放射線ってどんなもの」が開催された。

 

予算的には、施設面積に応じて配分される基礎額に加えて、機器更新などは学長裁量経費で。また間接経費の一部がアイソトープ、遺伝子、機器分析、動物の4つの部門に振り分けられ、機器設備の維持や修理に充てられる。各種利用料金も設定しており、なかなかの経営手腕と見えた。その一方で、施設利用による業績もアピールする必要があるが、その基礎データをDB-Spiralと連動したオンラインシステムにより収集する仕組みが出来上がっていた。このシステムは遺伝子実験施設の職員が開発したという、こちらはなかなかのチームプレーである。

 

ただ、配管など見えない部分の施設設備の老朽化は否めない。最近、施設部と協調しながら、改修工事のプランニングも開始したということだ。これは実現すれば大仕事になるだろうが、楽しいだろうな。

 

 

さて、多くのことを学んだ施設をあとにして、今宵は薩摩料理。これは味噌おでん。

 

 

そして尾上さんの粋な計らいで、サプライズなゲスト、福徳先生と10年ぶりに再会した。今は定年後の第二の人生、「ふくとく行政書士事務所」を開業しておられるそうだが、顔を合わせるとお互い昔の現役時代で時間が止まったようだった。時間を超えた横のつながりと縦のつながりを堪能。

 

 

と、感謝しつつ、大久保さぁに挨拶して、金曜夜の鹿児島市内賑わいの中、機嫌よく宿まで歩いて帰った。薩摩の風が心地良かった。