~医務室~

 

 

ロッカールームでキャプテンが一人何かを書いている。

「何してんの?」

「コーチと相談したいことメモってた」

「もう書けた?」

「うん、もう終わり」

同じベンチの少し離れたところに座る

「話しかけていい?」

キャプテンはウン、と頷いてペットボトルの水を喉に運ぶ。

「Aパターン、できなかったからBパターンしてよ」

唐突にそう言われ、水を吹き出しそうになる。

「え?あれ、まだ続いてたの?」

「当たり前じゃん、邪魔が入っただけでお詫びするって言ったんだからちゃんとしてよ」

「えー?」

「嫌なの?」

「うーん」

「約束したのに」

「そ、、だったっけ」

「お仕置きしないとだから」

「なんだよお仕置きって」

「あんなトンチンカンな気をもう遣わないようにしないと」

先輩の口元がツンと、とがる。

「不服そう」

「俺は俺なりに考えてたんだから仕方ないだろ」

「俺の優先順位めちゃ低いのは酷くない?」

「お前にはちょっと甘えちゃったとこあったかもな」

「ほらッ、そういうとこ!」

「え?だめ?」

「ダメだよ。俺に遠慮ないじゃん。なんかあったら他の人を優先して俺をないがしろにしがちってことじゃん」

「違うよ。ほら、他の人より関係性近いからさ、わざわざ優先するようなことしなくても分かり合える、ていうか」

「ん゛ー」

上手な表現をされて責めづらくなる

「それに謝ったからいいじゃん」

「あ、開き直った」

開き直った人は、えへへと笑う。

こういうところはおどけたりする。

「上手に言ってもだめだからね」

肩を竦めて申し訳無さそうな顔はする。

周りを見回す。

誰もいないのを確かめてからお尻を滑らせて近づいた。

「何、何?」

警戒されるが正直に言う。

「マサさんと二人きりになれる時間作りたい」

言われた先輩の目がまんまるになる。

「今回集合する前に空港で会ったでしょ?」

「う、うん」

「久しぶりに会えて俺、ほんとは嬉しくて抱きつきたかったけど周りに人がいっぱいいたからめっちゃ我慢したんだよ」

「…」

「マサさんに会いたくてたまらなくて、やっと会えたって思ったのに、相手にしてもらえなくて泣きそうだったんだから」

「…そ、だよね。悪かった」

あ、ヤバイ。俺、また蒸し返してる。

確かにもう謝ってくれてる。

こんな責めるようなことはもう言っちゃだめだ。。

反省する気持ちが大きくなった。

「やっぱりいいや、ごめん」

「え…?」

「マサさん大変なのに俺わがままなこと言ってるよね。

二人きりにはなりたいけど、マサさんに負担をかけるのは絶対にしたくないって思ってて、、

むしろサポートしないと、ていうのは思ってるから。。」

 

「祐希…」

優しい声がした。

 

「わかった。時間つくるよ」

 

ハッと顔を上げる。

 

「いいの?!」

「いいよ、Bプランって、どこ行くんだったっけ?」

「あ、、医務室がいい!」

「わかった。医務室な。ご飯食べた後でもいい?」

「うん!」

諦めてがっかりしていたところに明るい光がパッと点いた。

 

どこかからキャプテンが呼ばれる声がした

返事をするとキャプテンは立ち上がった。

行ってしまう、、と見送ろうとしたらドア前でキャプテンが立ち止まる。

 

目が合うと、苦笑した。

「?」

ジッとその顔を見つめているとスタスタと戻ってくる。

耳元に顔を寄せると囁かれた

 

「そんな淋しそうな顔すんなよ。夜、ちゃんと医務室に行くから」

 

それだけ言うと片手を上げ、部屋から出ていった。

 

囁かれた左耳が熱くなる。

この人は俺をドキドキさせる天才だ、と思った。

力が抜けて動けなくて、

俺は暫くベンチに座ったままでいた。

 

 

 

 

続く