全日本に選抜された。

周りからは最年少、と言われるけど、できるって気持ちは自分の中にあるから

正直ワクワクの方が勝ってる。

そんな感じだ。

けど、やっぱり大人に混じってトレーニングをしてたら自分でどこか無理してたのか、脚が攣ってしまった。

2日目は貧血を起こしてしまった。

 

ついていけなかった自分が歯痒い。

夕飯食べたら先輩たちは「お大事に」と見送ってくれたのも恥ずかしかった。

 

一人とっととシャワーを浴びるとほとんどふて寝状態でベッドに入った。

 

ドアが開け閉めされる音が聴こえる。

シャンプーのいい匂いが合宿の殺風景な部屋を満たす。

 

同室の柳田さんは物静かだ。

無言であれこれしてる気配がする。

その後、シンとする。

 

なんとなく、、見られてるような気がする…

いや、そんなことはないか。

もう早く寝よう。

そう思ったとき声が聴こえた

 

「石川、、もう寝た?」

 

急に話しかけられピクっと肩を揺らしてしまう

 

「…まだ起きてます」

「体調どう?」

 

なんか話かけてくる…

 

「…まぁまぁです」

「飲みたいものとかあったら買ってきてやるけど」

「大丈夫です」

「貧血、だったっけ?」

「…はい。それと脚、攣りました」

そう言ったらまたシンとした。

先輩に話しかけられてるのに背中向けたまま答えたりして叱られるかな、と気になってくる。

だけど実際は違った。

俺のベッドの脇まで近づくと背を向けている俺の目の前にペットボトルの水を置いてきた。

え?と振り返った。

「脚攣ったんだったら寝る前は水飲んでおいたほうがいいよ。それ、まだ開けてないからお前にやる。」

「…す、みません」

半身を起こし、ぎこちなく礼を言う。

すると途端に目の前が歪んだ。

また貧血?そう思ったとき支えられるのを感じた。

 

「石川っ」

肩を持たれ支えられていた。

「顔…真っ赤」

「え?」

そう言えば少し熱い、、かな?

 

「ちょっとゴメン」

そう言うと前髪をあげられる。

先輩も額を見せるとちょんと俺の額にくっつけてきた。

目の前に柳田さんの顔が来る。

ボンヤリとされるまま眺める。

 

こんな近くで見たことなかったけど…

この人、

ほんとに綺麗な顔してるな、

て頓珍漢なことを思う

 

 

「熱。かなりあるんじゃないかな。ちょっと待ってて」

と言われる

「?」

柳田さんは俺を寝かせるとそのまま部屋を出ていった。

またシンとした部屋に戻る。

 

天井を見ながら思う。

なんだろ、、あの人。

歳近いだろって同室にされたけど、俺も柳田さんも人見知りするから

まだそんな話は噛み合ってないっていうか、、

 

まぁ、、そもそも俺がまだ誰ともそんなに心開いてないし、、な。

 

ハーッ、

大きな溜息をつく。

全日本に入ったって即戦力になるんだって息巻いて、初日でエンストしちゃった気分だ。

それもまだ治ってないとか、、何しに来てんだよ。

頭を抱えて背中を丸くして唸る

 

「頭も痛いのか?」

心配そうな声が聞こえた。

いつの間にか帰ってきてた。

物静かすぎて気付かなかった。

「飲んでもいい解熱剤もらってきた。これ飲んで、それでも調子悪いようだったらドクターに来てもらおう」

差し出された薬を手にとる。

「…ありがとうございます」

「コップ要る?」

「大丈夫です」

「そう」

身体を起こすと本当に熱があることを自覚した。

薬を口に入れるともらった水で飲んだ

ちょっとむせてしまう

そしたら先輩はベッドに座り、俺の背中をさすってくれる

「すみません」

「いいよ」

背中をさする手は普通に「手当て」してもらってるようですごく落ち着いてくる。

気を張っていたのが、だんだん解かれていくのがわかった。

なんだかほだされるっていうか、ほぐされる?っていうか、へんな感じがする

多分すごく熱が上がってきてるんだと思う。

朦朧としてくる。

「頭痛いのもすぐ薬効いてくると思うからもうちょっとだけ頑張れ」

「はい…」

くらくらしたらいろんな気持ちが頭の中を縦横無尽に走り始めた。

いっぱい頑張ってんのに、やっぱり子供だって思われてるのかな、

逸材って聞いてたけど、大したこと無いって思われたんじゃないか、、

逸材なんて、自分で思ったことないのに。

そんなフレーズ、いつの間にか勝手につけられてただけなのに、自分で変にプレッシャー感じて、、

バカばかみたいだ。

そんなあれこれで頭の中がいっぱいになる

気持ちはすごい盛り上がってんのに、

やることもわかってるし、できるとも思ってて、あとは定着させて、また次のステップに上がってくだけなのに身体がエンスト起こすとか、悔し過ぎる。

ポツンと目尻に涙粒が浮かぶ。

「あ…」

だめだ泣きそう。

でも止められない。

どうしよう。

そう思った時、ギュッて抱きしめられた。

俺の頭はその人の胸に引き寄せられていた。

「・・・」

なんで?って思ったけど、あまりに自然で思わずその胸の中に身をおく。

でも重いだろうな、、

それが申し訳なくて、ちゃんとベッドに横たわろう、とベッドに重心を置くよう倒れ込んだ。

そしたらなぜか柳田さんも巻き込んでしまって一緒にベッドに倒れていた。

 

なんで?ってまた思った。

 

 

 

つづく