~時を駆ける~ 1 」・「 2 

 

 

『応答がありません。』

という表示の後にイタリアへのコールは切れてしまった。

おそらく電源が入っていないのだろう。何度かけても同じだった。

ついさっきまで話してたのに、なんで電源切るんだよ。。

いつもだったら…
 
 

"聞いて、マサさん"

 

そう言って隣に座ると返事をしてなくても勝手に話し始める。

試合出れない、とか。うまくできない、とか。なんでも自分から言ってくる。

兄のような気持ちだった。

時には小学校から帰ってきた子供の話を聞く母親もこんな気持ちではないかと思ったこともあった。

少なくともリーグの延期が決まった頃まではそうだった。

ヨーロッパのロックダウン時には互いに情報共有に努めたのもある。

なのに…

「なんで何も言わなかったんだよ…」

電話をかけるのは一旦止める。

わざわざ電源を切っているなら何か思うところがあるのかもしれない。

けれどモヤモヤして眠れなかった。

動画を観て気を紛らわせようと努める。なんとか一時間近く頑張ってみた。

イタリアの時刻を確認する。

この状況であれば寝る前に誰かとは連絡とるはずだ。そのためにもう一度電源も入れるだろうと予測する。

 

”もう一度かけてやる”

そう思って発信する。すると予測どおりさっきとは違う音が聞こえすぐ受信に切り替わった。

どうやら誰かとの会話の後、切るとともに画面に触れたタイミングで受電したようだった

 

「もしもし?!」

「?」

「祐希」

「エッ…?」

戸惑いの声が聴こえる

「…マサさん?」

「そうだよッ」

「…」

「もしもし?!聞こえてる?」

「…聞こえてる…」

「リーグ中止って、大変じゃないか!なんで言わないんだよ」

「・・・」

「お前、そのためにイタリア残ったのに!家族だってそっちいないのに!まだまだ厳戒態勢なのに!」

「マサさん…」
「どうせ中止なんだったら祐希があの時にすぐ帰れるようにしてくれてたってよかったじゃないか!!そしたら俺と一緒に帰国できたのに!!バレーボールもできずに缶詰状態にして!ひどすぎるよ!」

一気にまくし立てていた。

「…え、、と」

相手が戸惑っていることに気付く。

ハッとしてしゃべるのを止めた。

「ゴメン…お前に言うことじゃなかった…。誰かが悪いって話でもないのに…」

「…びっくりした」

いつもは冷静なキャプテンが声を荒げていることに圧倒される。

息もあがっている様子がわかる。

「…大丈夫?」

大きく息をつく音が聞こえた。

「大丈夫?って、俺のセリフだよ、祐希」

穏やかな口調で寂しげにも聴こえる。

「なんで…、なんで俺に何も言わなかったんだよ」

「マサさん…」

「いつもならいろんなこと話してくれてたのに」

「そう、、、。いつもさ……、いつもいつもマサさんには話聞いてもらってたでしょ。

けどマサさんも大変なのに暗い話より楽しい話だけできた方が電話切った後マサさんが楽かなと思って」

「何言ってんだよ」

「俺、ずっとマサさんに甘えてきたから、こんな非常事態なんだからそういうところ変えないとダメかなって」

「変えるって...」

「部屋で一人でいるとさ、心細くなってって、でも俺もう24歳だし少しは大人にならないとって思って」

「違うよ」

「違う、かな」

「違う。お前が子どもだって話じゃなくて、母国から離れて一人で部屋からも出られなくて、大好きなバレーボールもできなくて、ってなったら何歳であろうが気が滅入ったりするんだ。いまはお前の方が大変なのに我慢してどうするんだよ!」

「…」

「祐希、気なんて遣うなよ。少なくとも、俺にはそんな気を遣うな」

「マサさん…」

「心配になるだろ」

「…ごめん」

「俺の方こそ、、気付かなくて、ごめん」

「優しいね」

「優しいとか、じゃないよ。けど、今は大変なんだから甘えていいくらいなんだよ」

「・・・」

「聞こえてる?」

「聞こえてます」

「わかった?」

「わかりました」

その言葉を聞くと、安堵の溜息が聞こえた。

「ねぇ、マサさん」

「ん?」

「じゃぁさ、ちょっと甘えてもいい?」

「いいよ」

「ビデオONにして顔見せて」

そんなこと?と思ったがそういえばさっきは無下に断ったのだった。

無言でビデオをONにする。

画面越しでも気付くほど顔が赤く、本当に心配して、電話してきてくれたことがわかる。

なんだか久しぶりにちゃんと顔を見たような気がしてじっと見てしまう。

「そんな見られると照れるんだけど...」

「画面越しなんだからそんな近くで見てるわけじゃないでしょ」

「そうなんだけど」

キャプテンは苦笑いをする。

そして唇を強めに結ぶと目の前の後輩を見つめ本当にかけたかった言葉をおくる。

 

「祐希……辛かったな」

 

その一言が全てだった

せっかく大人ぶっていたのに、抑えていたはずの感情がせり上がってくる。

思っていたことが訥々と口からこぼれはじめた。

 

 

続く