司会。

専門学校時代の友人で通称眼鏡君という奴がいる。
彼と共に過ごしたのは入学してから夏休みまでだったので三ヶ月程である。
夏休みに入る前彼はバンドを志し東京へと旅立った。
時を経て僕も東京へとやってきた。
それから十年。
僕も彼も音楽を続けている。
この十年間。彼と過ごした時間は年に二回盆と正月くらいのもんで計算しても二十回程である。
その間にも僕達を取り巻く環境は日々変化を遂げその度に音楽との付き合い方という事についておおいに悩み語り合った。
ただ僕達は十年音楽を続けている。
音楽は趣味であったり仕事であったり生活の一部であったり悩みの種であったりする。
昔程音楽を聴かなくなった。家ではほとんどロックを聞く事もない。出来るだけ音楽と距離をおきたいと思う事も多々ある。音楽を商業だと考えこともある。そんな考えを寂しく思う事もある。
それでも僕達は音楽を続けている。
レバーを肴に安居酒屋にて久しぶりに二人で話した。
僕は自分とは何なのかという事がわからなくなっている。
彼はもっと必要とされたいと言った。
十年経ってもやっぱりわからない事だらけで。
不安に押し潰されそうになる。
傷の舐め合いかもしれないけれど。
僕達は音楽が好きで前に進もうとしている。

そんな彼が昨年素敵な奥さんと入籍した。
そして今年。入籍したその日に式を挙げるらしい。
司会を頼まれた。
そんな素敵な式。
祝わんわけにはいかんやろ。