不景気:前回と今回(不動産流動化事業) | 謎の金融日誌

不景気:前回と今回(不動産流動化事業)

不動産業界の苦境が続いています。昨年から「新興不動産会社」とか「不動産流動化銘柄」とされる先を中心に上場不動産会社が続々と法的手続に入ったり上場廃止になったりしています。地価の下落やオフィスビルの空室率の上昇も続いていますね。

前 回の回復局面から私募不動産ファンドでAMや再生案件にも関わっていた私にも感慨深いものがあります。今日は前回の不良債権時代(90年代末~)と今回の 不景気の違いと今後をざっくり考えてみます。マクロ的な要因や国際的動向などを捨象して国内の状況に限ってみると以下の感じです↓

1.不良債権時代
(1)銀行の不良債権が激増し、その正確な定義や額も曖昧だった。
(2)巨額案件には損失を出さないように追い貸しが続いていた。中小案件には貸し渋りや回収が目立った。
(3)金融再生委員会や金融監督庁がやっと整備された時期で、稼動は遅れていた。
(4)証券化やノンリコースローンなどの金融技術が不足していた。
(5)倒産法制や倒産手続が使いにくく、処理を遅らせていた。
(6)調達金利はゼロ近辺だった。

2.今回の不況
(1)銀行の不良債権は、前回に比べて(おそらく)はるかに少ない。
(2)追い貸しをしているという話はほとんど聞かない。貸し渋りも前回ほどひどいとは聞かない。
(3)金融監督体制はかなり整備され、対応も迅速化している。
(4)証券化、ノンリコースロン、REIT、DCF評価法などの金融の基礎技術が普及した。またオフバランス会計や連結会計などの穴も塞がれた。
(5)民事再生法や会社更生法、会社法、金商法など規制が刷新され、倒産手続が迅速化されたり投資家保護が厳格化された。
(6)調達金利は引き続きゼロ近辺にある。

こうして眺めると今回の不況時の方が景気回復に向けての環境条件ははるかにマシのようにも思います(※個別の会社様にとっては今回だろうが前回だろうが大変なことには違いないですが、それはさておき)。しかし一方で、

(ア)前回には買い手として登場していた外資系のファンドやアレンジャーが資金不足で沈黙。
(イ)当時証券化や流動化で取れていた裁定利益がほとんど取れなくなった。金融技術全体がコモディティ化した結果、「タテをヨコにすれば儲かる」ような図式が成り立たなくなった。
(ウ) にもかかわらず、SPCや組合等のハコを使えば与信がとれることを皆が理解したため、物件の先行取得と私募ファンドやREITを出口とする回転型ビジネス が不動産会社で加速してしまった。逆にいえば、物件はハコによって会社本体から倒産隔離されていたので、銀行側も本体側へ支援する必然性を感じなくなって いた。

という新たな特徴が浮き彫りになりました。
今後、不動産業と金融業は再び別れていく予感があります。つい2年前まで頃は 「不動産と金融の融合」が叫ばれていました。しかし金商法でファンド事業全般に網がかぶせられたので中小不動産会社が流動化を直接手がけるのは格段に面倒 になりました。また経済的にもREITのM&Aの可能化などが進んでいけば、REITと国債のイールドギャップも米国のように縮小していくでしょう。必然 としてEXITの際のキャピタルゲインでファンド収益を組み立てる事業が難しくなります。
 不動産会社の流動化事業は「出口を押さえた上でいちはやく安値で物件を仕込み、どれだけ高いレバレッジを利かせるか」が勝負です。そのためにはエクイティ投資家の背を押し、かつ自分も儲かるために自らもポジションを取っていくという構図で、業界用語でいう

 「同じ船に乗る(Same Boat)リスク」

を 取り過ぎてしまいました。このリスクは資金繰り難となって瞬時に会社を追い詰めます。今後、裁定利益がとれなくなる中で従来の流動化事業は終息していくで しょう。そこで、不動産会社は証券化ビークルも一般の顧客と同様クライアントの一つとしながら、物件の目利き・仲介・管理というもともとの得意分野に特化 していくと予想しています。
 今回の景気までに良くなった点を違った角度から1つ挙げると、不動産・金融業界で多くの新しい仕事が定着したことで しょうか。デューディリ、ストラクチャリング、ローンアレンジ、AM、PMといった業種や職種が生まれ、ブティック型のアドバイザリー会社やファンド会 社、会計事務所などの関連産業やそこに従事する人が増えました。ファンドバブルが終わってもこうした仕事がなくなるわけではないし、今後中国やアジア圏で 不動産証券化やファンド事業がもっと拡大するときにビジネスとして拡張していけることになります。これは10年前に外資系が日本に上陸した構図といっしょ です。むしろそういった「市場インフラの層の厚み」の構築が日本版金融ビッグバン(古い)の意義だったともいえます。

 なお、不動産その ものに目を向ければ、10年前のように「適正な収益価格がつかない」という状況にはもう戻りません。物件は個別性が強いとはいえ、キャップレートが業界で 共有されていますし上場REITの市場データをベンチマークとして判断する素地があるからです。その意味では90年代のように「処理できない不動産が根雪 のように固まる」といった事態にはならないし、収益物件がいつまでも放置されるといったことにもならないと思います。実体経済の悪化が下げ止まり、アジア や中東圏の資金が流入し買取りファンドなどの活動が水面下で本格化すれば(もう一部では動意もあるようですが・・・)、持ち直しにひどく時間はかからない のではないでしょうか。