株式評価:DCF法②:キャッシュフローの求め方 | 謎の金融日誌

株式評価:DCF法②:キャッシュフローの求め方

・資産価値評価の一般論は「キャッシュフローの将来の値の期待値を合計して、現在の価値に割り引いて求める」と書きました。まず何はともあれキャッシュフローを求めないと始まりません。ここではその流れをみてみます。

1.キャッシュという言葉の定義について
・ いきなり計算式出す前に、「キャッシュ」とか「キャッシュフロー」という言葉について確認します。キャッシュはそのまま字のとおり受けとれば現金という意 味ですが、単に出納帳や預金通帳の記帳をすれば分かるというものではありません。資金繰り表(経常収支表)の数字とも違います。
・株式評価や企業 価値評価でいうキャッシュフローは、財務会計(決算書)で発生主義で表示されている収益や資産・負債の変動を現金ベースに置き換えて表示されるものです。 なぜそのような求め方をするのかというと、財務会計の数字は全ての企業にとって共通の基礎ツールだからです。資金繰り表や出納帳は社内で用いられるコン フィデンシャルなものですから、対外的な開示を前提として組み立てられている企業会計原則や財務諸表等規則といったようなすべての企業に共通する処理規則 や表示ルールがありません。これは諸外国でも同じです。一方、株価評価や企業価値評価は外部の関係者がなるべく客観的な方法・他の案件や過去の事例と比較 可能な方法で行われることが望ましいです。ですから価値評価では決算書の数字を加工してキャッシュに直していくというプロセスを踏むのです。
※た だし、資金繰り表(経常収支表)を使ってはいけないと「公的に決まっている」わけではありません。実務の慣行です。実は経常収支表などを精緻に作っていれ ば、キャッシュの変動は決算書から作るものと同じになる場合もあるでしょう。実際、有価証券報告書提出会社が作成する「キャッシュフロー計算書」は決算書 からも作成できるし(間接法)、個々の取引を現金ベースで積み上げても同じ結果を求められるのです(直接法)。

2.誰にとっての価値?
・ここで、資産価値という言葉をもっと具体的に定義しておきます。というのは、キャッシュフローといっても誰にとってのキャッシュフロー評価なのか、が問題になるからです。投資家一般?債権者?株主?など視点はいろいろあります。
・そのために、事業価値、企業価値、株主価値といった混同しやすい言葉を以下のように整理します。

イ.事業価値=事業が生み出すキャッシュフローの期待値の割引現在価値の合計
ロ.非事業性資産=その企業の本業、事業と関係の薄い資産の価値。たとえば遊休不動産、余資運用で保有している投資有価証券など。負債として非事業性負債があれば、それを相殺して非事業性純資産と捉えることもあります。
ハ.企業価値=事業価値+非事業性資産
ニ.有利子負債=受取手形+短期借入金+長期借入金+社債+CP等(支払手形、未払費用など金利の発生しないものは含まない)
ホ.株主価値=企業価値-有利子負債

・ 上場企業の場合、理論的には、この株主価値が株式時価総額より小さければ割安評価、大きければ割高評価されているということになります。なお企業買収など で、買収価額(有利子負債+株式)が算定された企業価値(事業価値+非事業性資産)を超えることもあるでしょう。その場合は「超えた」部分がいわゆる「の れん代」ということになります。
・さて、上記から「企業価値評価」という場合には価値を享受する対象は投資家=債権者+株主になります。「株式価値評価」という場合には価値を享受するのは投資家=株主になります。キャッシュフローも企業価値に対応するものと株式に対応するものとは異なることになります。

3.キャッシュフローの求め方
・前置きが長くなりましたが、キャッシュフローの計算式は以下のとおりです。

(1)企業価値全体を算定してから株式価値を求める場合
企業価値
=FCFF(Free Cashflow to Firm)
=営業利益×(1-法人税率)+減価償却-設備投資-運転資本増減(△)
・ここで求めた企業価値から有利子負債を控除すれば株式価値となります。
・ 式の意味は以下のとおりです。まずキャッシュフローの出発的として「利益」を使うのはよいとして営業利益を使う理由。これは企業価値がが株主+債権者を合 せた投資家全体だからです。純利益や経常利益では債権者への支払利息を控除した後なので(営業外費用)使えません。次に法人税を控除するのは、投資家全体 としては会社のキャッシュフローから政府へのキャッシュフローを支払わなければいけないからです。なお、負債があるときは利息の税控除により企業価値に 「節税効果」が見込まれるわけですが、企業価値の算定では事前に負債があることを前提にしてしまってはトートロジーになってしまうので、100%株式調達 の場合に置き換えてキャッシュフローの価値を考えます。負債の効果は割引率において考慮します(後述)。減価償却額を足すのは、これが非現金の費用項目だ からです。費用として計上されていても実際にはキャッシュアウトしないので、足し戻すことになります。設備投資は投資キャッシュフローとして現金流出にな りますので控除します。運転資本増減は、売上・費用の計上と実際のキャッシュイン・アウトのズレを表しています。たとえば、売上が増えてもその分売掛金に なっていれば、キャッシュフロー上はマイナスです。逆に仕入れをしても掛けで買っていればその分キャッシュフロー上はプラスになるというわけです。

(2)株主価値を算定する場合
株主価値
=FCFE(Free Cashflow to Equity)
=税引後純利益+減価償却-設備投資-運転資本増減(△)-負債返済+新規負債増加
・ この式は(1)と似ていりますが、企業価値を経ずに直接株主に対応するキャッシュフローを求めています。したがって出発点となる利益は税引後の「純利益」 になっています。また債権者を区別していますから、新規の負債の調達と返済はキャッシュイン・アウトに影響を与える存在としてカウントされています。