日銀の「政策金融」
銀行保有株式の買取りのついでに日銀が取り組んできた「政策金融」に興味がわいたので調べてみました。ふつう、日銀といえば金融政策ですが、カッコ付きで「政策金融」と書いたのは意味があります。
こ こで政策金融というのは、市場環境の整備や特定の政策意図(産業の育成など)の下に本来は政府がやってもよいような金融施策全般を指すものとします。市場 金利の操作を通じて物価安定やマネーサプライへ影響を与える施策や、緊急時に特融をするような信用秩序維持政策には中央銀行が独占的にこれらを行う理論的 裏づけがあり、教科書にも載っています。しかし中央銀行がどんな政策金融を担うのかとか、その範囲についてはまとまった議論はあまり聞きません。よくある のは「優良な担保の裏づけのある金融政策以外に手を出すと通貨価値が毀損し、ひいては中央銀行の信認が損なわれる」のでダメだ、という主張です。しかしど の程度毀損してはいけないのか、毀損しないよう気をつければやってもいいの?とかは実はまじめに議論されたことはないような・・・。まあ、面倒な議論をす るよりも、政府自身や政府系金融機関が取り組んだ方が「すみわけ」「比較優位」としていいのだからそれ以上はいいじゃないか、ということなんでしょう。。
それはともかく、『日本金融年表』(日銀刊:ウェブでもみられる)を眺めているといろいろ面白い政策金融に取り組んでいるので、以下時系列に書いておきます。
(日銀の「政策金融」の変遷)
・昭和21年3月16日 工業手形等物資の生産移動の裏付けのある手形を商業手形に準じ優遇
することを決定
・21年 6月 1日 製糸業者の購繭手形に対する優遇措置
・21年 6月28日 連合軍住宅関係資金にかかる公益営団振出手形の優遇措置
・21年 7月 8日 輸出向綿製品加工賃手形を商業手形に準じ再割引
・21年 8月 9日 スタンプ手形制度実施(緊要な生産部門の運転資金優遇措置)
・21年 8月30日 貿易手形制度実施(輸出物資製造・集荷資金等の貿易金融の優遇措置)
・21年11月29日 輸出向生糸集荷資金融通手形(生糸手形)の優遇措置を実施
・22年 1月15日 融資斡旋委員会設置(支店でも融資斡旋を開始)
・22年 6月 2日 起債調整協議会(24年6月 起債懇談会と起債打合会に分化)
・22年 7月 1日 日本銀行貿易スタンプ手形制度創設(輸出前貸資金に限定)
・23年 3月26日 公団認証手形担保貸付の優遇措置
・23年 4月23日 商工中金に中小企業関係別枠融資を実施
・23年 4月30日 農業手形制度創設(農業生産金融の優遇)
・23年 5月20日 購繭スタンプ手形制度の適用範囲拡大(種繭・乾繭等)
・23年 5月28日 日本興業・日本勧業良好に中小企業金融関係別枠融資
・23年 6月 4日 農業手形制度の適用範囲を拡大(肥料、農薬、農機具)
・23年10月 1日 購繭スタンプ手形制度の適用範囲を輸出玉糸メーカーに拡大
・24年 1月15日 貿易手形制度の適用範囲を輸出業者の直接発注先に拡大(メーカー貿易
手形の新設)
・24年 2月 1日 国有繊維払い下げに伴い、輸出綿・毛製品生産資金に対し貿易手形の特例
・24年 7月14日 輸入羊毛の内需用払い下げ代金にスタンプ手形制度を適用
・24年 7月18日 漁業手形担保貸付の優遇措置を実施
・24年 7月21日 重要産業の設備資金融資を行う生命保険会社から融資相当額の国債買入れ
・24年 8月 3日 木炭集荷資金融通手形を適格担保として優遇
・24年11月 8日 公募株・証券処理調整協議会放出株購入資金供給のため生命保険会社から
国債を買入れ
・25年 4月13日 商品(倉庫証券)見返貸付制度実施
・25年 5月15日 融資斡旋の逐次廃止を言明
・25年 8月30日 貿易手形制度運用の厳格化を決定
・26年 5月14日 レギュラー・ウェイ実施に伴う各地証券金融会社に対する資金援助措置(短資
取引株式担保預り証を付随担保とする証券金融会社振出の手形を担保とする貸付制度)
・26年12月21日 ワシントン輸出入銀行との間に4000万ドルの綿花借款契約
・27年 5月 1日 日米行政協定に基づく米軍経費支払いのための経理処理として在日米軍との
当座預金取引を開始
・27年 9月13日 援助資金私企業貸付金債権の一部を開銀に引継ぎ(残りは10月18日)
・29年 2月 8日 融資斡旋部廃止
・29年 3月 9日 輸入金融優遇措置の全面見直し(①別口外国為替貸付の新規承認停止、②
輸入決済手形、運賃手形の手形期間圧縮、③輸入物資引取資金関係スタンプ手形制度を
鉄鋼および皮革以外停止、④工業手形のスタンプ手形制度準用扱い廃止)
・30年 5月 6日 輸入物資引取資金関係スタンプ手形制度を廃止
・31年 5月31日 購繭資金に対するスタンプ手形制度適用を廃止(スタンプ手形制度自体が休止
となる)
・31年 8月 6日 手形貸付担保の種類、担保価格を改正(原則として担保手形については適格
商業手形・輸出手形・輸入決済手形・輸入運賃手形・農業手形に限定)
・33年12月31日 農業手形制度廃止(九州、四国は34年1月末)
・41年 1月 8日 輸入貿易手形制度の取扱い停止
・43年11月19日 日本証券金融㈱を通じる公社債流通金融の実施
・47年 9月19日 輸出前貸手形制度および期限付輸出手形制度を9月30日限りで廃止。
・47年10月 2日 公定歩合の形式を改正(輸出金融優遇措制度廃止に伴い期限付輸出手形
割引歩合および輸出前貸手形を担保とする貸付利子歩合を廃止<この結果、公定歩合は
2本建ての簡略化>)
・53年 5月22日 輸入決済手形制度実施(輸入貿易手形制度廃止)
・54年12月 3日 同制度停止
・56年 3月19日 商品(倉庫証券)見返貸付制度廃止
こ れを眺めていると日本の産業史を金融面から納得できますね。戦後の復興期はとにかくすぐゼニになる軽工業を復興させるべく生糸の輸出向け手形の割引優遇措 置を繰り返し発動しています。また、原料のマユを買うための資金調達の手形も積極的に割り引いています。「スタンプ手形」という耳慣れない用語があります が、これは輸出奨励のために輸出関係手形に日銀がスタンプを押した手形で、再割引のときに優遇レートが適用になるというものでした。
昭和22年 には「融資斡旋委員会」なるものが行内に立ち上げられ、各支店でも融資斡旋が推進されたようです。いまどき金融庁でさえこんなベタな融資推進はやりませ ん。何でもやるんだなあ。23年には農業手形なんてのも創設して優遇していますね。食糧増産が緊急課題だったんでしょう。24年には漁業も木炭集荷業も優 遇。25年には倉庫証券を裏づけに融資をしていますが、これって倉荷証券のことでしょうかね?!Wikipediaみるとそのように出ていますが、倉荷証 券なんて教科書で習った以外実際にみたことは無いので不思議な感じがします。
目を引くのが27年の米軍との当座預金取引開始です。これは知らなかった。今でも取引してるんでしょうかね。
26年の「レギュラー・ウェイ」実施に伴う証金に対する融資云々・・というのはちょっとややこしい事情があります。この制度は今もヒッソリと存続しているはずですが、要するに信用取引の育成のために
株を担保にしてコール資金を供給する
と いう仕組みです(正確には、証金が資金調達をするときに取引所に預けた株を担保に短資からコールマネーを調達するのですが、その「預り証」を付随担保にし て資金を日銀が提供するという仕組み)。レギュラー・ウェイというのは米国を参考にして作った信用取引の一種です。戦後、株式民主化の後も日本経済には資 産の蓄積がなかったため株式市場は低調でした。これを活性化するには仮需の喚起が必要だ、というわけで証金が相次いで設立され、その資金手当てという「政 策金融」に乗り出すことになったんですね。証券会社はコール市場で直接ファイナンスできない時代が長かったですし、この政策は当時意味があったと思いま す。
この27年頃を境に「何でもあり」の政策金融措置は徐々に廃止・縮小されていっています。復興→成長促進から都銀のオーバーローン=日銀貸出依存の緩和が重点項目に移っていった時代です。
い ずれにしても、危機のときには「金融政策」以外の「政策金融」で中央銀行が果たす役割というのは大きいということですね。繭・生糸・農業漁業・鉄鋼という リアルな生産現場の後押しから株式市場まで、やろうと思えば何でもできちゃうという意味で、やりようによっては出番はいろいろあるのかも(ちなみに繭や農 業漁業、信用取引を支援しても別に通貨価値が毀損して騒ぎになった、という話はあまり聞きませんね。そういう点ではCPの適格担保化なんてカワイイもんか もしれません)。
こ こで政策金融というのは、市場環境の整備や特定の政策意図(産業の育成など)の下に本来は政府がやってもよいような金融施策全般を指すものとします。市場 金利の操作を通じて物価安定やマネーサプライへ影響を与える施策や、緊急時に特融をするような信用秩序維持政策には中央銀行が独占的にこれらを行う理論的 裏づけがあり、教科書にも載っています。しかし中央銀行がどんな政策金融を担うのかとか、その範囲についてはまとまった議論はあまり聞きません。よくある のは「優良な担保の裏づけのある金融政策以外に手を出すと通貨価値が毀損し、ひいては中央銀行の信認が損なわれる」のでダメだ、という主張です。しかしど の程度毀損してはいけないのか、毀損しないよう気をつければやってもいいの?とかは実はまじめに議論されたことはないような・・・。まあ、面倒な議論をす るよりも、政府自身や政府系金融機関が取り組んだ方が「すみわけ」「比較優位」としていいのだからそれ以上はいいじゃないか、ということなんでしょう。。
それはともかく、『日本金融年表』(日銀刊:ウェブでもみられる)を眺めているといろいろ面白い政策金融に取り組んでいるので、以下時系列に書いておきます。
(日銀の「政策金融」の変遷)
・昭和21年3月16日 工業手形等物資の生産移動の裏付けのある手形を商業手形に準じ優遇
することを決定
・21年 6月 1日 製糸業者の購繭手形に対する優遇措置
・21年 6月28日 連合軍住宅関係資金にかかる公益営団振出手形の優遇措置
・21年 7月 8日 輸出向綿製品加工賃手形を商業手形に準じ再割引
・21年 8月 9日 スタンプ手形制度実施(緊要な生産部門の運転資金優遇措置)
・21年 8月30日 貿易手形制度実施(輸出物資製造・集荷資金等の貿易金融の優遇措置)
・21年11月29日 輸出向生糸集荷資金融通手形(生糸手形)の優遇措置を実施
・22年 1月15日 融資斡旋委員会設置(支店でも融資斡旋を開始)
・22年 6月 2日 起債調整協議会(24年6月 起債懇談会と起債打合会に分化)
・22年 7月 1日 日本銀行貿易スタンプ手形制度創設(輸出前貸資金に限定)
・23年 3月26日 公団認証手形担保貸付の優遇措置
・23年 4月23日 商工中金に中小企業関係別枠融資を実施
・23年 4月30日 農業手形制度創設(農業生産金融の優遇)
・23年 5月20日 購繭スタンプ手形制度の適用範囲拡大(種繭・乾繭等)
・23年 5月28日 日本興業・日本勧業良好に中小企業金融関係別枠融資
・23年 6月 4日 農業手形制度の適用範囲を拡大(肥料、農薬、農機具)
・23年10月 1日 購繭スタンプ手形制度の適用範囲を輸出玉糸メーカーに拡大
・24年 1月15日 貿易手形制度の適用範囲を輸出業者の直接発注先に拡大(メーカー貿易
手形の新設)
・24年 2月 1日 国有繊維払い下げに伴い、輸出綿・毛製品生産資金に対し貿易手形の特例
・24年 7月14日 輸入羊毛の内需用払い下げ代金にスタンプ手形制度を適用
・24年 7月18日 漁業手形担保貸付の優遇措置を実施
・24年 7月21日 重要産業の設備資金融資を行う生命保険会社から融資相当額の国債買入れ
・24年 8月 3日 木炭集荷資金融通手形を適格担保として優遇
・24年11月 8日 公募株・証券処理調整協議会放出株購入資金供給のため生命保険会社から
国債を買入れ
・25年 4月13日 商品(倉庫証券)見返貸付制度実施
・25年 5月15日 融資斡旋の逐次廃止を言明
・25年 8月30日 貿易手形制度運用の厳格化を決定
・26年 5月14日 レギュラー・ウェイ実施に伴う各地証券金融会社に対する資金援助措置(短資
取引株式担保預り証を付随担保とする証券金融会社振出の手形を担保とする貸付制度)
・26年12月21日 ワシントン輸出入銀行との間に4000万ドルの綿花借款契約
・27年 5月 1日 日米行政協定に基づく米軍経費支払いのための経理処理として在日米軍との
当座預金取引を開始
・27年 9月13日 援助資金私企業貸付金債権の一部を開銀に引継ぎ(残りは10月18日)
・29年 2月 8日 融資斡旋部廃止
・29年 3月 9日 輸入金融優遇措置の全面見直し(①別口外国為替貸付の新規承認停止、②
輸入決済手形、運賃手形の手形期間圧縮、③輸入物資引取資金関係スタンプ手形制度を
鉄鋼および皮革以外停止、④工業手形のスタンプ手形制度準用扱い廃止)
・30年 5月 6日 輸入物資引取資金関係スタンプ手形制度を廃止
・31年 5月31日 購繭資金に対するスタンプ手形制度適用を廃止(スタンプ手形制度自体が休止
となる)
・31年 8月 6日 手形貸付担保の種類、担保価格を改正(原則として担保手形については適格
商業手形・輸出手形・輸入決済手形・輸入運賃手形・農業手形に限定)
・33年12月31日 農業手形制度廃止(九州、四国は34年1月末)
・41年 1月 8日 輸入貿易手形制度の取扱い停止
・43年11月19日 日本証券金融㈱を通じる公社債流通金融の実施
・47年 9月19日 輸出前貸手形制度および期限付輸出手形制度を9月30日限りで廃止。
・47年10月 2日 公定歩合の形式を改正(輸出金融優遇措制度廃止に伴い期限付輸出手形
割引歩合および輸出前貸手形を担保とする貸付利子歩合を廃止<この結果、公定歩合は
2本建ての簡略化>)
・53年 5月22日 輸入決済手形制度実施(輸入貿易手形制度廃止)
・54年12月 3日 同制度停止
・56年 3月19日 商品(倉庫証券)見返貸付制度廃止
こ れを眺めていると日本の産業史を金融面から納得できますね。戦後の復興期はとにかくすぐゼニになる軽工業を復興させるべく生糸の輸出向け手形の割引優遇措 置を繰り返し発動しています。また、原料のマユを買うための資金調達の手形も積極的に割り引いています。「スタンプ手形」という耳慣れない用語があります が、これは輸出奨励のために輸出関係手形に日銀がスタンプを押した手形で、再割引のときに優遇レートが適用になるというものでした。
昭和22年 には「融資斡旋委員会」なるものが行内に立ち上げられ、各支店でも融資斡旋が推進されたようです。いまどき金融庁でさえこんなベタな融資推進はやりませ ん。何でもやるんだなあ。23年には農業手形なんてのも創設して優遇していますね。食糧増産が緊急課題だったんでしょう。24年には漁業も木炭集荷業も優 遇。25年には倉庫証券を裏づけに融資をしていますが、これって倉荷証券のことでしょうかね?!Wikipediaみるとそのように出ていますが、倉荷証 券なんて教科書で習った以外実際にみたことは無いので不思議な感じがします。
目を引くのが27年の米軍との当座預金取引開始です。これは知らなかった。今でも取引してるんでしょうかね。
26年の「レギュラー・ウェイ」実施に伴う証金に対する融資云々・・というのはちょっとややこしい事情があります。この制度は今もヒッソリと存続しているはずですが、要するに信用取引の育成のために
株を担保にしてコール資金を供給する
と いう仕組みです(正確には、証金が資金調達をするときに取引所に預けた株を担保に短資からコールマネーを調達するのですが、その「預り証」を付随担保にし て資金を日銀が提供するという仕組み)。レギュラー・ウェイというのは米国を参考にして作った信用取引の一種です。戦後、株式民主化の後も日本経済には資 産の蓄積がなかったため株式市場は低調でした。これを活性化するには仮需の喚起が必要だ、というわけで証金が相次いで設立され、その資金手当てという「政 策金融」に乗り出すことになったんですね。証券会社はコール市場で直接ファイナンスできない時代が長かったですし、この政策は当時意味があったと思いま す。
この27年頃を境に「何でもあり」の政策金融措置は徐々に廃止・縮小されていっています。復興→成長促進から都銀のオーバーローン=日銀貸出依存の緩和が重点項目に移っていった時代です。
い ずれにしても、危機のときには「金融政策」以外の「政策金融」で中央銀行が果たす役割というのは大きいということですね。繭・生糸・農業漁業・鉄鋼という リアルな生産現場の後押しから株式市場まで、やろうと思えば何でもできちゃうという意味で、やりようによっては出番はいろいろあるのかも(ちなみに繭や農 業漁業、信用取引を支援しても別に通貨価値が毀損して騒ぎになった、という話はあまり聞きませんね。そういう点ではCPの適格担保化なんてカワイイもんか もしれません)。