慎凪妄想Story☆Walk with me
突然始まる慎凪劇場でございます。
ちょっと書きたくて堪らなくなっちゃったので、お付合い頂ける方のみ先にお進み下さいませ![]()
こつん、こつん・・・
まだ誰も居ない廊下に二人分の足音が響き渡る。
フロアの奥まった一室の前で足音が止まると、背の高い男が背広の内ポケットからカードキーを取り出しそれをすっと挿入口に通した。
認証を示す緑色のランプが点くと男はカチャリとドアを開け、それを押さえたまま後ろに居た男を先に室内に通し、その後を追って自分も室内へと歩を進める。
大きく伸びをしながら先を行く男が背広を脱ぎ掛けると、すかさず長い腕を伸ばして肩から落ちかけた背広の肩口に手を掛けてするりと脱がせ、それをそのまますぐ横に有るハンガーラックへと掛けて肩の位置を合わせ、裾を払うようにしながら形を整える。
窮屈な背広を脱いだ男はデスクを回り込んで自分の椅子にドカっと腰を下ろすと目の前に立っている男に声を掛けた。
「慎、今日の予定は?」
「えっと・・・10時半からKカンバニーの社長がご挨拶に見えます。その後、11時にはO社の担当者と来週のイベントの件で打合せ、12時からJ社の会長とMホテルにて会食、その後14時半から東京支社とテレビ会議、16時半には税理士の先生がお見えになります」
スケジュールをすらすらと口にする慎をじっと見つめていた男が「ふぅー」っと大きくため息を吐いた。
「今日もきっちきちやな・・・」
そう呟く男を見下ろして慎はふっと笑みを見せる。
「そうですねぇ」
そう言って可笑しそうに自分を見下ろしている慎を男はくいくいっと指で呼ぶ。
「ん?」と小首を傾げて自分を見た慎を男はもう一度ちょいちょいと手招きする。
それへ応えるかのように前へ進み出て身体を折り曲げて顔を近付けた慎のネクタイを掴むと、男はそのままぐいっと力を込めて引っ張った。
「うわっ」っと突然の事にバランスを崩して前のめりになりデスクの上に手を着いた慎の目の前に男の顔が有った。
「何するっ・・・んっ・・」
言い掛けた言葉は最後まで続かなかった。
慎の唇を塞いだ男は暫しの口付けの後唇を離すと、慎に向かって小声で何事か囁いた。
それを聞いた慎はチラっと男の目を見ると「ダメです」と一言発して起き直り、乱れたネクタイを元通りに戻すと脇に有る自分のデスクへと向かう。
「おもんないなぁ・・・」
その背中へこれみよがしな声が飛ぶ。
その声を無視して慎は自分の椅子に座るとデスクの鍵を開け、中から何枚か書類を取り出しそれに目を通す。
そして「よし」と小さく呟くと、再び立ち上がり、先程の男の前にそれを差し出した。
「社長、この書類に目を通しておいて下さい。明日、この事項について弁護士の先生との打合せが予定されていますので」
そう言われた男はその書類にチラっと目をやり、「分かった」と返事をしたかと思うと、書類の上に添えられた慎の細く長い指の上に自分の手を重ねる。
そしてその指先を弄びながら男は視線を上げて、自分を見下ろしている慎と視線を合わせた。
「お前、その敬語止めろや!?それとなぁ、二人っきりの時は『社長』なんて呼ぶなや、慎!?」
そう言う男の声にどこか甘い響きが潜んでいる事を知る事の出来る者は誰も居ない。
見つめ合う二人を除いては・・・
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
話は数年前に遡る。
男が慎と初めて出逢ったのは丁度男が人生の転機を迫られている時期だった。
田舎から出て来たばかりの垢抜けないがどこか自信と野心に満ちた目をしたひょろりと背の高い若造と同じ現場で顔を合わせた途端、男はやけに心に引っ掛かる物を感じた。
自分でも良く分からない奇妙な感覚が胸の内に満ちて来るのを男は感じていたが、それが何なのかを知るのはそれから二年後位後の話だ。
男は社内でもトップクラスの売上げを誇るエリートだったが、慎とはその後殆ど顔を合わせる機会が無く、その奇妙な感覚もいつの間にか男は仕事に忙殺される毎日の中、忘れて行った。
人生の転機を迎えた男は仕事に追われる毎日の中、一体自分が何の為に額に汗して頑張っているのかすら分からなくなりつつ有った。
男には確かな野心と理想が有ったはずだった。
それを叶える為にこそ意に染まない仕事も引き受け、少しでも自分の理想に近付く為に頑張って来たはずだった。
それがいつの間にか理想は遠くなり、目の前の現実に日々流されて行く諦めにも似た空虚な毎日を送る自分を、どこか冷めた目をして嘲笑うもう一人の自分が見ているような感覚に身を任せる事に疑問すら持てなくなりつつ有ったその時、再び男はひょんな偶然から慎と同じ現場で顔を合わす事となった。
新規プロジェクトの立上げと言う重要な職務を久々に任された男は2、3の机と椅子位しか置かれていないがらんとした何も無い殺風景な部屋に入ると、そこに窓の外を眺めていたらしい細身のスーツに身を包んだ長身の青年の後ろ姿が有った。
ドアの開く音に気付いた青年がくるりと男の入って来た方を振り返る。
その姿に男はハッとし、一瞬立ち竦む。
朝日を背にした青年の顔は輝いていた。
「お久し振りです」
青年が眩しいばかりの笑顔を見せてそう声を掛けると、男はやっとそれが慎だと言う事に気付いた。
その姿に昔会った時の田舎臭い垢抜けない感じはもう既に無い。
第一線を走る企業戦士の自信に満ち溢れた姿がそこに在った。
男は眩しそうに慎を見ると何と声を掛けたら良いのか柄にも無く戸惑いを見せて曖昧に会釈する。
そんな男の戸惑いなど気付く風も無く、慎は男の元へ大股に歩み寄りいきなりガシっと男の手を取って握り締めた。
「あなたの噂はかねがね聞いてました。一緒に仕事が出来て光栄です。プロジェクトの成功を目指して頑張りましょう」
目を見ながら力強くそう言う慎は自分が知っていた姿より遥かに大きくなったように男には感じられた。
「そうやな。宜しく頼むわ」
男は取敢えずそう返すと、慎の肩をポンポンと叩いて、「さっき何を見てたん?」と、先程慎が見ていた窓の方を見やる。
「あぁ・・・さっき?」と聞き返すと、慎は男を促して窓際まで行き、向かい側に建っている高層ビルの窓ガラスに映る自社ビルの姿を指差した。
「僕達が今居るこの部屋の高さはまだ下から数えた方が早い位の高さやけど、いつか絶対あの天辺に映ってる一番高い所に有る部屋を自分達の居城にしてみせるって誓ってたんです」
そう言ってニッコリと笑った慎の笑顔に迷いは無かった。
男はまたしてもそんな慎の笑顔を眩しい物でも見るかのように仰ぎ見る。
それが男と慎との運命の出逢いの瞬間だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
それから数年後、男と慎はプロジェクトを大成功へと導くと、新たな野望に向かって一緒に走り出す事となる。
天辺を取る!
それが二人が一緒に見た夢だった。
男の傍らには常に慎が寄り添い、、社長となった男の秘書として今や男にとって無くてはならない右腕となり何くれとなく世話を焼いている。
慎に出逢った事で男は再び自分が何を目指していたのかを思い出し、そして夢を叶えた。
それは男の半歩後ろにいつも寄り添う慎の存在が、男に遠い昔に置き去りに仕掛けていた一番大切な物を取り戻させる切欠を与えたからだった。
社長と秘書と言う立場に変わっても、変わらぬ物が一つだけ有る。
それはお互いを必要とし、求め合う心・・・
一日の全日程を終えげんなりした顔をした男を後部座席に乗せた車が高級住宅街に在るマンションのエントランスに滑り込み所定の位置に止まると男が自分でドアを開ける間もなく、さっと後部座席のドアが開けられる。
「なぁ、慎?そろそろ運転手雇ってお前も一緒に後ろで寛いだらどうなん?」
連れ立って歩く男の言葉に慎は苦笑しながら首を横に振る。
上層階へと続くエレベーターに乗り込んだ途端、慎が口を開いた。
「俺、もう、前みたいにへったくそな運転手にイライラさせられるのごめんやで!?」
その言葉を聞いて男が笑い出す。
「お前、えらいキレとったもんな、あん時!?」
「そらキレるわ、あんな危ない運転されたら」
「あんな怖い思いする位なら俺が自分で運転する方が絶対安心やで!?」
「分かった、分かった」
可笑しそうに笑う男の隣りにピッタリと寄り添った慎がその肩を抱き寄せながら耳元で囁く。
「大事なあんたになんか有ったら大変やもん・・・」
「それは社長としての俺に言ってるん?」
男は自分の肩に回された慎の手を弄びながら問い返す。
「それも有るけど・・・」
「けど!?」
「分かってるやろ・・・」
そう小さく呟くと慎は男に素早く口付け肩を抱く手に力を込めた。
「あんたが社長じゃ無くても、俺は隣りを一緒に歩いて行きたいんやって・・・」
「ん・・・・・」
その言葉に男は満足気な笑みを見せる。
互いが互いを求め、必要とする時、そこには確かな絆が生まれる。
天辺を求めた男達の旅はまだ始まったばかり。
その先に何が待っているかは歩いて行かなければ分からない。
だから、共に歩いて行こう。
「一緒におってな!?慎!?」
「あんたが要らんって言っても一緒におったるわ・・・凪沙・・・」
・・・・・・・・・fin
相も変わらずグダグダ話になっちゃったけど、最後までお付合い頂いた方がいらっしゃいましたらありがとうございました
さ、気が済んだから寝よっ