「実野ちゃんさ、俺と浮気してみない?」
一つ上の先輩、研也さんのこの一言から、全部始まった。
サークルの有志でコテージを借りて、バーベキューをしに来た日
研也さんに会うのも久しぶりだった。
「はあ、私も結婚を誓った彼氏がいるんですけどね。まぁでもいいでしょう。
その浮気、付き合いましょう。」
「え?何その彼氏の話??俺知らなかったよ?」
当然だ。だって私は2ヶ月前まで
私と研也さんの後輩である、陸人と付き合ってた。
………ことになってるんだから。
「誰にも言ってませんもん。」
ややっこしいことになったなー。と思いつつ
枕の下に両手を入れ体勢を変える。
枕の下は温まって柔らかい布団の中と全く違う感触がする。
うつ伏せになって両手は枕の下に、枕の上にはあごをのせる。
研也さんを見てなんていなかった。
「でも、浮気はしますよ。なんなら、添い寝でもしてあげましょうか、いま。」
階下でみんな寝てる。一緒に旅行に来てるみんな。
私の同期の宮林もみきっぺも、研也さんの同期の悟朗さんも、美和子さんも。
後輩の陸人も。
………研也さんの彼女の桧山さんも。
「添い寝してあげましょうか。」
と
言われた男は無言だ
でも分かる。この男が何を言いたいのか。
どうするつもりなのか
気がついたらわたしの温めた領域に、返答が入り込んでいた
もう少し、この距離を楽しめばいいものを……
「キスしてもいい?」
研也さんとの思い出を頭に駆け巡らせながら、うなずいた。
大学での初めてのサークル。
そこで研也さんの背中を見て、育ってきた。
同期たちと少し毛色の異なる私だった。
優しい教授ばかりの緩い学部、新歓一発目に引き当てたこのサークルに私は一目惚れし、新歓期間中通い詰めた。
先輩方と仲良くなるのは必然で、一番年下の、しかも女の子のわたしはかわいがられた。
よく遊ぶ先輩グループの中で学年が一つしか変わらないのは研也さんだけ。
同じ妹分、弟分
研也さんもそうだったように、わたしもそうだった。
こないだまで高校生だったわたしは、全て
知らない遊び方、そこそこの大学生としての時間の使い方
全て教わった。
大学生として、そこで育った。
そういう言い回しがぴったりだ。
どんなに長い間一緒にいても、どんなに酔っ払っても、研也さん家の何度泊まっても
こんなことしたことなかった。
研也さんと、唇を合わせている。
(この人、こんな風にキスするんだ……。)
そんなことしか考えられない。
当たり前のことかもしれないけど、そんな感想しか浮かばない。
どんな人もそうかもしれない。
もしも、長年恋愛対象ではなかった人物に、浮気を申し込まれたら
みなさんはどうしますか?