エレベーターが5階に着くと、目の前にすぐコワーキングの入り口ドアがあり、「内覧イベント開催中」という簡易的な看板が立っていた。
思った通り、乗り合わせた男性も私と同じくコワーキング向かって歩いて行くのでその後をついて行き、二人で入り口に到着する。
内覧スタートから少し遅れて到着したためか、入り口は無人だった。
パーテーションで仕切られたコワーキングの奥からは、明るい話し声が聞こえてくる。
「これは…勝手に入っちゃっていいんですかね?」
私の前で困って立ち止まった男性は、苦笑いしながらそう話しかけてきた。
黙っていれば彫りが深くて賢そうな感じなのに、笑顔は人懐こい人だなと思った。
「う〜ん…困りましたね」
私も彼につられて苦笑いしながらそう答えて受付をのぞくと、インターホンのようなボタンがあったけれど、押していいのかがよくわからなかった。
彼が中に1歩踏み出し、すみませ〜んとパーテーションの奥に向けて声をかけたところ、声に反応して「は〜い」という女性の返事があり、やっとこちらに向かって人が来てくれそうな気配がした。
事前予約制ではなく、来た人に順次オフィスのお披露目と内覧をゆるくしているイベントだったようで、ふわっとオフィス案内が始まってしまったため、私は成り行きでこの男性と一緒にコワーキング内を案内してもらうことになった。
彼と私は年恰好や雰囲気が似ていたから2人連れだと思われている気がしたけれど、わざわざ訂正するのもどうなのかなと思い、素直に2人で案内されることにする。
最初に見学させてもらった共有スペースだった。とてもゆったりした配置になっていて、対面で4人が使えるボックス席やカフェのようなテーブルと椅子の他に、窓に向けて座って、リクライニングできるソファ席もある。
リラックスしながら仕事ができそうで、私もこんなオフィスで働きたいくらいだった。
「こちらがカフェコーナーになります。
ご自由に使っていただけます」
コーヒー好きの私は、ついテンションが上がって抽出できるコーヒーの種類を確認した。
「カプチーノも飲めるんですね」
「はい、紅茶のティーバッグやポタージュスープもご用意予定です」
「わぁ」
デトックスウォーターも3種類準備されている。
ますますこういうオフィスで働きたい。
私の勤務先では最近、経費削減のためにコーヒーマシーンが撤去されてしまったばかりだった。
「ドリンクが色々あるのはいいですね。
実は法人の登記も考えていまして。個室も見せてもらえますか」
ドリンクコーナーにテンションを上げている私の横で、男性はそんな依頼をしていた。
彼はオフィスの契約を真剣に考えている大事な見込み客のようだ。
「もちろんです、こちらにどうぞ」
彼のおかげで個室も色々見せてもらうことになった。
個室は1人用のこじんまりとしたスペースから、数人分のスペースまで広ささは色々。
簡易的なデスクと椅子は準備されていて、いつでも仕事がスタートできそうだった。
男性は色々質問していたけれど、このコワーキングにどういう印象を持ったのかは、よくわからなかった。
一通り見学させてもらった最後に、料金が載っているチラシを手渡され、
プランについて詳しく説明が必要かを案内の女性が聞いた。
「そうですね、お願いします」
男性はそう答えてから、私をちらりと見た。
「私は大丈夫です、ありがとうございます」
私が答えると案内係の女性が少し驚いて
「お連れ様ではなかったんですね」
と言うので、
「「実はそうなんです」」
と答えた言葉が、彼と私で綺麗にハモったのが面白くて、思わず顔を見合わせて笑った。
さてこれからどうしようかなと思っていたところに
「藤宮さん?」
と、私を呼ぶ声がした。
つづく
